現在、総合科学技術会議は平成14年度予算の概算要求へ向け、投資の重点化を念頭においた分野別推進戦略を検討中である。わが国における科学技術政策の司令塔として今年1月に設置された同会議には初めてとなる予算配分方針の作成であり、どのような提言がされるのか、注目を集めている。
本稿では、政府R&D投資の配分に関するわが国、米国及びEUの政策動向を紹介し、各国及び地域において、どのような分野、領域等が重点化されているかについて分析する。
2001年4月、わが国で第2期科学技術基本計画(2001〜2005年度)がスタートした。同計画は、5年間で24兆円(対GDP比1%)の政府R&D投資を予定している。
特に重点を置き、優先的に研究開発資源を配分する分野として、
・ライフサイエンス分野
・情報通信分野
・環境分野
・ナノテクノロジー・材料分野
の4分野が明記されている。さらに、これら以外に国の存立にとって基盤的で、国として取り組むことが不可欠な領域を重視し、研究開発を推進する分野として、
・エネルギー
・製造技術
・社会基盤
・フロンティア
の4分野が挙げられている。
このような重点化の方針は、第1期(1996〜2000年)では明示されてなかった。同計画を踏まえ、総合科学技術会議はさらに分野別に
・重点領域
・当該領域における研究開発の目標
・当該領域における研究開発推進方策の基本的事項
を定めた分野推進戦略の作成に取り組んでいる。
2001年4月9日、ブッシュ大統領は2002年度(2001年10月〜2002年9月)の予算教書を発表し、議会に立法化を要請した。現在、議会では予算審議が本格化しており、9月末を目処に個別の歳出法案が成立する見通しである。
予算教書では、政府R&D予算は前年比6.1%増の965億ドル(約11.9兆円)となっている。このうち国防予算が494億ドル(約6.08兆円)で前年比8.0%増、非国防予算が471ドル(約5.79兆円)で前年比4.3%増である。
政府R&D予算のうち非国防予算を分野別に見ると図表1となり、これらの分野別予算の対前年増加率は図表2となる。
図表 1 2002年度政府非国防R&D予算(分野別)

出典:AAAS Analysis of R&D in the FY 2002 Budget
図表 2 2002年度政府非国防R&D予算対前年増加率(分野別)

出典:AAAS Analysis of R&D in the FY 2002 Budget
非国防R&D予算では、健康分野が大部分を占め、さらに対前前年増加率も大きいが、エネルギー分野は前年より大きく減少している。
政府R&D予算の約半分を占める国防予算については、十分に情報公開されていないため、分野別の配分が不明である。
ただし、予算教書では、全R&D予算における機関別配割合を提案しており、これを図表3に示す。また、機関別R&D予算の対前年増加率を図表4に示す。各機関は特定分野に特化したミッションを持つ(例えば、NIHのミッションは健康分野中心、DOEのミッションはエネルギー分野中心)ため、機関別の予算配分状況から、政府の分野別重点化方針を推測することができる。
図表 3 2002年度政府R&D予算(機関別)
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* DOD:国防総省
* NASA:航空宇宙局
* DOE:エネルギー省
* NSF:国立科学財団
* USDA:農務省
出典:Budget of the United States Government, Fiscal Year 2002, Office
of Management and Budget
図表 4 2002年度政府R&D予算対前年増加率(機関別)

出典:Budget of the United States Government, Fiscal Year 2002, Office of Management and Budget
図表3から、2002年度政府R&D予算では、DODが約半分を占め、次にNIHが多い。また、図表4からDODとNIHの予算増加率が高いことが分かる。以上から、政府はDODのミッションである国防分野と、NIHのミッションである健康分野を重視していると考えられる。
政府R&D予算を研究、開発別に見ると図表5となり、それぞれの対前年増加率は図表6となる。
図表 5 2002年度政府R&D予算(研究/開発)

出典:Budget of the United States Government, Fiscal Year 2002, Office of Management and Budget
図表5から、基礎研究と応用研究の予算はほぼ同じで、特に基礎研究ではNIHが約半分を占めることが分かる。また、基礎研究及び応用研究を合計した研究予算と開発予算はほぼ同じであることが明らかである。
図表 6 2002年度政府R&D予算対前年増加率(研究/開発)

出典:Budget of the United States Government, Fiscal Year 2002, Office of Management and Budget
また、図表6から、基礎研究、応用研究、開発ともに2002年度は予算が増加していることが分かる。ただし基礎研究の予算では、NIHは大きく増加しているが、それ以外はわずかに減少していることが分かる。
2002年度の予算教書では、482百万ドル(約593億円)が計上されている。これは対前年8.1%増であり、予算が倍増した2001年度ほどではないが、着実に増加している。
2002年度の予算教書では、20億ドル(約2500億円)が計上されている。対前年2.1%増となる見込みである(2001年度の同イニシアティブの予算はまだ決定されていない)。2001年度の予算は対前年30%増となる見込みであり、2002年度には増加ペースが落ちることが予想される。
これについて、IT R&D イニシアティブ国家調整局(National Coordination
Office for Information Technology R&D)のフラーニ局長は、「ブッシュ政権はクリントン政権と同様にIT分野の研究開発の重要性を認識しているが、ブッシュ大統領を含む共和党は、政府主導よりも産業主導によるR&Dを支持する傾向があり、特に同分野のR&Dについては産業が主導権を握っているため、大部分を産業に委ねようとしている。」と指摘している。
2002年度の予算教書では、16億ドル(約20百億円)が計上されている。対前年4.4%減である。これには、同プログラムにおいて最大規模であるNASAの地球科学プログラム(Earth Science Program)の予算が大幅に削減されたことが大きく影響している。
予算教書の内容は、議会審議で変更される見通しである。SRIインターナショナル科学技術政策プログラムの上席技術政策アナリストであるカー氏は、「予算教書ではNIHの予算が他機関に比べて著しく増加しており、議会審議で削減される可能性がある。」と指摘している。
ただし、同氏は「医療分野への投資は国民の支持が得やすく、またNIH重視はブッシュ大統領のキャンペーン公約でもあるため、議会がNIHの予算を大幅に削減する可能性は小さい」との見方も追加している。
また、R&D予算規模が最大であるDODは、5月末を目処に主要項目の優先順位付けを見直している。この見直しの結果、「DODの予算要求が修正さる可能性が高い」と、DOD国防研究及びエンジニアリング局(Defense
Research and Engineering)前局長ジョネス氏は指摘している。
一方、2001年5月3〜4日にワシントンDCで開催された第26回米国科学振興協会コロキウム(26th
Annual AAAS Colloquium)では、「ブッシュ大統領は、裁量的歳出の増加を、予算教書で示した対前年4%増にとどめたい意向が強く、各省に対し、議会が予算要求の増額を示唆しても応じないように指示している。」という指摘があった。政府R&D費はほぼ全額が裁量的歳出に含まれるため、今後、どの機関も大幅に予算が増加する可能性は少ないと考えられる。
2001年1月に、欧州委員会が支援するR&D活動の基本コンセプトとなる「欧州研究圏構想」(European
Research Area Initiative)が提案された。
2002年には、この構想を実現するための有力な手段となる第6次フレームワークプログラムがスタートする予定であり、現在、欧州委員会を中心に同プログラムの準備が進んでいる。
本章では、まず欧州研究圏構想を、次に第6次プログラムの特徴及び政策動向を解説する。
欧州研究圏構想とは、欧州の共通経済圏で商品やサービスが取引されるように、研究活動の共通市場を構築、運営し、各国の研究者間の交流を深め、国境を越えたR&D活動を活性化させるための政策構想である。
この背景には、欧州には多くのCOE(Center of Excellence)が存在するが、相互の協調性に欠け、欧州一体となってR&D活動に取り組める土壌が十分にできていないという問題意識がある
図表7に欧州研究圏構想に関わる取り組みを示す。
図表 7 欧州研究圏構想に関わると取り組み
| 2000年1月 | ビュスカン欧州委員会研究担当大臣が欧州研究圏構想を提案。 |
| 2000年3月 | リスボン欧州首脳会議で各国首脳及び政府代表が、同構想を「知識を基盤とした社会の構築と欧州企業の競争力強化へ向け、重要なコンセプト」として支援することを約束。 |
| 2000年3月〜2001年12月 | 欧州委員会によるExcellenceマッピング(リスボン欧州首脳会議が、欧州のExcellenceを誰にも見えるようExcellenceマップの作成を要請)。 |
| 2001年3月 | ストックホルム欧州首脳会議で各国首脳及び政府代表が、同構想の重要性を再確認。 |
フレームワークプログラムとは、欧州委員会が中心となり、加盟国の研究者による共同研究を支援する5ヵ年プログラムである。2002年度から第6次プログラムがスタートする予定である。
第6次プログラムの予算は、第5次に比べて17%増の175億ユーロ(約1.89兆円)であり、重要分野(下記7分野)に予算の6割を配分する。各分野への予算配分は、図表8の通り。
A ゲノムとバイオテクノロジー(20億ユーロ)
B 情報社会技術(36億ユーロ)
C ナノテクノロジー・インテリジェント材料・新規製造技術(13億ユーロ)
D 航空宇宙(10億ユーロ)
E 食品や環境変化のリスクコントロール(6億ユーロ)
F 持続的発展と気候変動(17億ユーロ)
G 欧州知識社会における市民とガバナンス(2.3億ユーロ)
図表 8 第6次フレームワークプログラムの分野別予算

図中の記号は上記の分野に対応
出典Budget breakdown for the Research Framework Programme (2002-2006) as
proposed by the European Commission, European Commission, 22.02.01
これらのうち、特にゲノム、ナノテクノロジー、情報技術は早急な取り組みへの優先順位が高い。また、第5次に比べて、航空宇宙分野が重要分野に含まれる一方で、エネルギー、運輸分野が重要分野から外れていることも特徴的である。
「欧州知識社会における市民とガバナンス」が重要分野に取り上げられた背景には、欧州全体に「科学と社会が契約を結ぶ必要がある」という考え方が広まりつつあることがある。
図表9に第6次プログラム実施までのスケジュールを示す。
第6次プログラムの下で実施される個別プログラムの採択には、欧州理事会及び欧州議会の承認が必要であり、両者の調整プロセスが複雑なため、かなりの時間を要する。このため、欧州委員会は、第6次では第5次に比べて個別プログラムを大型化し、総数を減らすことで採択の効率化を図る予定である。
図表 9 第6次プログラム実施までのスケジュール
| 2001年2月 | プログラムの原案提出。 |
| 2001年3月 | ストックホルム欧州首脳会議でプログラムの推進戦略提出。 |
| 2001年8〜9月 | 欧州議会の第一読会を経て、同議会の意見提出。 |
| 2001年秋 | 研究相理事会を経て、理事会の意見提出。 |
| 2002年中頃 | 第6次プログラムの開始。 |
米国は健康及び国防分野、EUはゲノム、ナノテクノロジー及び情報技術分野を特に重視している。一方、米国ではエネルギー及び農業分野、EUではエネルギー及び運輸分野の相対的重要度が低下している。
こうした海外の動向を踏まえつつ、総合科学技術会議には、効果的・効率的な資源配分の実現へ向けた戦略立案を進めることが求められる。