第4章 大学における研究開発

4.1 研究開発組織としての大学

 大学をはじめとする高等教育機関は、研究開発機関としての機能も持ち、各国の研究開発システムのなかで重要な役割を果たしている。3.1.3節で示したように、主要5か国では研究開発費の13.9%から20%を使用し、しかも各国でその割合は増加する傾向にある。また、産業部門との連携が進むなど、研究開発の質的な変化も見られる。

 高等教育機関の範囲は国によって異なるが、各国とも大学が主たるものであり、本章では特に必要の無い限り「高等教育部門」の語に代えて「大学部門」の語を用いる。なお、日本の大学は1999年度において622校(国立99校、公立66校、私立457校)であるが、本章ではこれに加えて短期大学(585校)、高等専門学校(62校)、大学付置研究所(214機関)、その他の機関(214機関)などを合わせた「大学等」を対象とする(1) 。これらについては以下「大学等」の語を用いる。

 図4-1-1に主要国における大学部門の研究開発費使用額の推移を示した。大学部門の場合、教育活動と研究開発活動を区別することが困難であるため、統計データには多少の問題があることに留意する必要がある。全般的には米国が日本の2倍程度であるなど、5か国の相互の関係や長期的な傾向は各国の研究開発費総額の場合(前掲図3-1-1参照)と類似している。

 日本の大学等における研究開発費の使用額は、1998年度において3兆2229億円で、日本全体の研究開発費の20%に相当する。その推移を見ると、図に示した期間を通じて直線的な増加傾向が基調であるが、1994年(度)のみは前年より減少している。他の国に関しては、通貨換算の影響もあり、この図のみから経年的変化を読みとることはできないが、米国の1990年代中頃からの増加は著しい。欧州の3か国については、金額では横ばいであるが、第3章(図3-1-9)で述べたように、国全体の研究開発費に大学の使用額が占める割合は1990年代を通じて増加傾向にある。

【図4-1-1】 主要国における大学部門の研究開発費の推移
注: OECDの購買力平価を用いて邦貨(円)に換算した。
フランスの1998年値は仮定値。
米国の1998,1999年は数値予備値。
資料: 日本−総務庁統計局 「科学技術研究調査報告」
米国−NSF, "National Patterns R&D Resources 1999 Data Update"
ドイツ−BMBF, "Bundesbericht Forschung 1996", "Faktenberidht 1998"
フランス−OECD, "Basic Science and Technology Statistics 1998"(1997,8年値はMain S&T Indicators 1999/2)
イギリス−OECD, "Main S&T Indicators 1999/2"
購買力平価−OECD, "Main S&T Indicators 1999/2", "National Accounts, 1999"
参照: 表4-1-1

 次に、日本の大学等における研究開発費(内部使用額)の組織別使用割合の推移(図4-1-2)を見ると、1990年代初頭まで国立大学の割合がゆるやかに減少する一方で私立大学の割合の増加傾向が続いたが、1991年頃からは国立大学の割合の減少傾向が止まり、多少変動しつつも4割強の付近で横ばいとなっている。一方、私立大学の割合は、1992年度以降やや下降気味である。また公立大学の割合は1990年代に入りわずかながら上昇傾向にある。1998年度の割合は、国立大学が43.6%、公立大学が5.7%、私立大学が50.6%である。なお、割合でなく実額で見た場合、全体的にはいずれも直線的な増加を示しているが、1994年度以降、国立大学の金額のみは明らかな増加傾向が見られず、1〜2年ごとに増減を繰り返している。

【図4-1-2】 日本における大学等の国公私立別の研究開発費使用割合の推移
資料: 総務庁統計局 「科学技術研究調査報告」
参照: 表4-1-2

 次に、大学部門の研究者数について検討する。各国の大学部門の研究者数に関する統計は、調査対象の定義や範囲あるいは調査方法が国によって大きく異なるため、国際比較を行う際には、その点を考慮する必要がある。まず、研究開発統計として一般に用いられているデータで比較する(図4-1-3)。

【図4-1-3】 主要国の大学部門の研究者数の推移
注: 各国とも自然科学と人文・社会科学の合計である。
日本の研究者はFTE換算していない。
ドイツの1990年までは旧連邦地域、1991年以降はドイツ。
資料: 日本、ドイツ、フランス、イギリス−図4-1-1と同じ
米国−NSF, "National Patterns of R&D Resources 1998"
参照: 表4-1-3

 日本の大学の研究者数に関する統計は、フルタイム換算データでないだけでなく、対象を広く捉えており、米国のおよそ2倍であるなど大きな値となっている。ただし、日本の統計データは、次の図4-1-4にも示されているように明確な定義による値であり、このデータから、日本の大学の研究者が増加していることを知ることができる。

 なお、図4-1-3には、日本の最新年(1999年)についてFTE推計値を併記した。その値は13.3万人であり、米国(1995年で13.4万人)とほぼ同程度となっている。ここで用いた推計方法は第3章の図3-1-6で用いた方法と同様である。

 他の国では、米国のデータはフルタイム換算データでないものの、日本と逆に対象を狭く捉えており、人口等を考慮すると相対的に小さい値となっている。欧州の3か国については、フルタイム換算データが報告されている。ドイツに関しては、1991年以降のデータには東西統合の影響が現れている。イギリスの研究者数には、1993年と1994年の間に大きな飛躍があるが、これは高等教育機関の改革などにより、調査対象が変更されたことの影響による。フランスの研究者数は、ほぼ一貫して増加している。

 我が国の大学等の研究者数について理解を深めるために、その内訳についてもう少し詳しくとりあげる(図4-1-4)。

【図4-1-4】 日本の大学等における研究者数の内訳(1999年)
資料: 総務庁統計局 「科学技術研究調査報告」
参照: 表4-1-4

 現在の日本の統計における大学等の研究者(統計上は「研究本務者」)の総数は、1999年4月1日現在で256,440人となっており、そのうち65.9%の169,070人が教員である。また大学の研究者には、大学院博士課程の在籍者(59,057人)及び医局員等(28,313人)も含まれている。

 教員のうち、大学の学部に所属する人数は139,052人であり、残りは短期大学(18,059人)や大学附置研究所(3,864人)の所属者である。なお、これらは大学教員のほとんどが研究者として計上された人数である(2)

 次に、再び国際比較によって我が国の大学部門の研究者数を見ることとする。ここでは、日本と米国のみを対象とする。両国の統計データは、特に調査方法の違いが大きく、図4-1-3に見られたように、単純に比較することは適切でないためである。

 比較に当たっては、両国の研究者数の統計に含まれている大学院生の人数を除いた上で(3) 、両国の条件を相互に近づけるように補正・推計を行う。また、米国では4年制大学のみが計上されているため、日本のデータも大学学部(大学院も含む)と大学附置研究所の教員と医局員に限った。

 両国の統計を見ると、前述のように日本の統計では大学教員のほとんどが研究者として計上されており、かつ、フルタイム換算が採用されていない。一方、米国の統計データは、フルタイム換算は採用されていないものの、(1)米国の大学で取得した博士号を保有する研究者に限られていること、(2)研究開発活動を主たる業務とする者のみが計上されている。

 以上の違いを考慮して、次のような推計を行った。日本の大学教員に関しては、厳密な意味でのフルタイム換算値ではないが、各種関係機関の資料等に基づいてフルタイム換算値に相当する値を推計した。さらに医局員等に関しては、活動時間の半分を研究開発に充てていると仮定して、その人数に2分の1を乗じた。

 一方、米国では、研究開発を主たる業務とする者9.1万人が統計値とされているが、それ以外にも教育を主たる業務とする者(10.2万人)などがいることに考慮する必要がある。そのため、研究開発以外を主な業務とする者のうち、研究開発を二次的な業務とする者の数に2分の1を乗じた数を統計値に加算した。

 その結果を元々の統計値と併せて図4-1-5に示した。日本の大学では研究者数の推計値が9.2万人、米国の推計値が13万人となり、統計値の場合と日米が逆転している。さらに、米国の推計値には、米国以外で博士号を取得した研究者及び博士号を保有していない研究者が含まれていないことから、これを含めるとすれば、米国の人数は更に多くなると考えられる。

【図4-1-5】 日本と米国の大学における研究者数の比較
注: 1) 日本、米国ともに大学院生を含まない。
2) 米国は4年制大学のみ、日本は大学学部(大学院も含む)と大学附置研究所の合計。
3) 日本の推計値は、大学学部と大学附置研究所の教員数についてはフルタイム換算相当値を用い、医局員数については統計値に1/2を乗じた値を用いた。
4) 米国の研究者数は、統計値、推計値ともに、米国の機関から授与された博士号の保有者のうち、4年制大学に雇用されている者。 統計値は、研究開発を主たる業務とする者の人数であり、推計値は、研究開発を二次的業務とする者の人数に1/2を乗じた値を統計値に加算した値。
資料: 日本−総務庁統計局 「科学技術研究調査報告」。ただし推計値は総務庁統計局資料等に基づき科学技術政策研究所が推計。
米国−NSF, “Characteristics of Doctoral Scientists and Engineers in the United States: 1997”
参照: 表4-1-5

4.2 日本の大学の研究開発の特徴と課題

 我が国の大学部門の使用する研究開発費は、第3章でもふれたように、国全体の研究開発費に占める割合に関しては国際的に見ても決して小さくない。しかし、外部からの受け入れが少ない点が特徴である。図4-2-1に、大学等の内部使用研究開発費について自己負担分と外部からの受け入れ分のそれぞれを示した。

【図4-2-1】 大学等の内部使用研究開発費の負担源別内訳の推移
資料: 総務庁統計局 「科学技術研究調査報告」
参照: 表4-2-1

 日本の大学等における内部使用研究開発費の総額は1998年度では3兆2229億円であるが、自己負担は2兆8848億円であるのに対し、外部から受け入れた研究開発費は3392億円であり、全体の10.5%に過ぎない。それでも1995年度以降その割合は増加する傾向にある。なお、日本の大学の自己負担分には、国立大学の校費も含まれている。

 大学等の内部使用研究開発費のうち外部からの受け入れ分について、その負担者を政府と民間に分け、それぞれの割合を図4-2-2に示した。1992年度までは、政府からの受け入れ研究開発費が占める割合が減り、民間の資金の割合が増加していたが、1993年度以降は、その逆の傾向に転じている。そのため、1992年に39.2%であった民間からの受け入れ研究費は、1998年には28.0%にまで減少している。

【図4-2-2】 大学等における外部からの受け入れ研究開発費の内訳の推移
注: 外部からの受入研究開発費には外国からの分もあるが、1998年で0.2%と極めて小さく、図には表れない。
資料: 総務庁統計局 「科学技術研究調査報告」
参照: 表4-2-2

 大学が企業から受け入れた研究開発費は、産学連携の状況を示す指標のひとつである。大学等が産業部門より受け入れた研究開発費の推移(図4-2-3)を見ると、1992年度までは著しく増加したが、その後は横ばいに推移しており、最近6年間に増加の傾向はほとんど見られない。しかも、1998年度の金額(594億円)は、同年度における大学等の内部使用研究開発費(3兆2229億円)の1.6%に過ぎない。国・公・私立の区分別に見ると、産業部門より受け入れた研究開発費は国立の金額が最も多いが、1993年度以降の伸びは私立大学のほうが大きい。

【図4-2-3】 大学等が産業部門から受け入れた研究開発費の推移
資料: 総務庁統計局 「科学技術研究調査報告」
参照: 表4-2-3

 一方で、産学連携を促進するための制度の整備は進められており、例えば国立大学等における「民間との共同研究」(1983年に創設。1997年3月文部省通知により改正)の制度の活用実績を見ると、1995年度(平成7年度)は1704件であったが、1998年度(平成10年度)には2568件と大きく増加している(文部省資料による)。このデータは、図4-2-3と異なり、直接的な研究開発費の授受を伴わない産学共同研究をも捉えている点で価値があるが、国立の大学等のみに限られたデータであり、また、金額が不明である。今後、産学連携の実態をより適切に把握するための指標の開発が重要である。ただし、国際比較の観点からは、図4-2-3にも示されているように、日本の産学連携は規模的に小さいということはできる。

 次に大学等の研究開発費に関して費目別の内訳を見ると、人件費が多く、またその金額は直線的な増加を示している(図4-2-4)。1998年度の人件費は2兆685億円で、全体の64.2%を占めている。一方、人件費以外の金額は合わせて1兆1544億円である。なお、図に示した期間を通じて、費目間の構成に大きな変化はない。

【図4-2-4】 大学等における費目別研究開発費の推移
資料: 総務庁統計局 「科学技術研究調査報告」
参照: 表4-2-4

 大学の研究開発費に関して学問分野別の割合の推移(図4-2-5)を見ると、図に示した期間を通じて分野間の変化が小さいことがわかる。ただし、ここに示した学問分野は、研究開発の内容による区分ではなく、学部等の組織の種類による区分である。そのため、この図から研究開発の内容面での変化は読みとれないが、大学の組織構成の推移が反映されていると考えられる。過去30年近く、我が国の大学では組織構成の大きな変化が無かったということができる点で、注目すべきデータである。

【図4-2-5】 大学等における研究開発費の学問分野別割合の推移
注: 学問分野の区分は、学部等の組織の種類による区分である。
資料: 総務庁統計局 「科学技術研究調査報告」
参照: 表4-2-5

 次に、大学等における研究者1人当たりの内部使用研究開発費の推移を学問別にみると、理学分野の金額が最も大きく、工学分野が次いでいる(図4-2-6(A))。両分野の金額は、長期的に見て増加の傾向にあるものの、1980年代に比べ1990年代の伸びはやや鈍化の傾向が見える。一方、最も金額の小さい保健分野の金額は、1990年代に入り、多少、増加の傾向が見えるが、依然として他の分野とは大きな差がある。農学分野に関しては、1990年代に入ってやや減少の傾向が見られる。人文・社会科学分野は1990〜92年頃に著しく増加したが、その後は横ばいに推移している。

 1人当たり研究開発費を比較する場合には、研究開発従事者の人件費を除いた研究開発費が用いられることがある。図4-2-6(B)には、人件費を除いた研究開発費について、研究者1人当たりの金額を示した。全般的に、過去10年間ほどでは金額の変化が少ないことがわかる。学問別では、理学の金額が最も多く、工学が次いでいる。

【図4-2-6】 大学等における研究者1人当たり研究開発費の推移

(A) 全研究開発費

(B) 人件費を除いた研究開発費

資料: 総務庁統計局 「科学技術研究調査報告」
参照: 表4-2-6

 次に、我が国の大学等について研究開発人材の点から検討する。先に、日本の大学は学問分野間の構成に変化が少ないことを研究開発費を用いて図4-2-5に示したが、同様の傾向は、研究者数のデータにも現れている。専門別の研究者数の推移(図4-2-7)を見ると、研究者の総数が増加しているなかで、分野別の構成はほとんど変化していない。なお、研究者の専門は出身大学の学部の種類等で回答する場合も多いと考えられ、調査時点の研究分野を示すというよりは、研究者の育成の状況を示す面が強いと考えられる。

【図4-2-7】 専門別研究者数の推移
資料: 総務庁統計局 「科学技術研究調査報告」
参照: 表4-2-7

 大学部門の研究者に関しては、国際比較などの場合に、博士号保有者数や学歴別の研究者数が必要となる場合がある。例えば、先に述べたように、米国の統計では大学の研究者数として博士号保有者のみが計上されており、これを我が国の研究者数を比較するためにも博士号保有者に関するデータが必要である。我が国の研究開発統計では博士号保有者が不明であるので、大学等の教員に関する統計を用いて、教員の学歴区分別の人数を調べることとする。この統計の対象は全大学教員であり、名目上は研究者と異なるが、既に図4-1-4に関する記述で指摘したように、そのほとんどが研究者として計上されているため、実質的に日本の大学の研究者(大学院生と医局員以外)を対象にしていると考えることができる。

 図4-2-8に、大学等の教員数を学歴区分別に示した。教員全体では、新制大学院の博士課程の修了者が40.1%で最も多く、次いで新制大学の修了者が28.3%となっている(図では旧制大学の修了者0.8%と併せて表示している)。また、新制大学院修士課程の修了者も26.1%と比較的高い割合となっている。

 専門分野別で見ると、新制大学院博士課程の修了者の割合が最も高いのは理学(55.3%)で、人文社会科学(44.3%)、工学(43.2%)が続いている。

 次に、大学における研究者1人当たりの研究支援者数の推移を図4-2-9に示した。日本の研究者1人当たりの研究支援者数は国際的に少なく、しかもなかでも大学の人数が特に少ないことは、第3章で述べた。さらに、ここに示した図からは、その数が減少している上に、研究者1人当たりの研究支援者数が従来比較的多かった分野や学部ほど、減少が著しいことがわかる。

【図4-2-8】 大学教員数の学歴区分別内訳(1998年度)
注: 学部、大学院、附属病院、附置研究所等の教員数である。
資料: 文部省 「学校教員統計調査報告書」(平成10年度版)
参照: 表4-2-8
【図4-2-9】 大学等における研究者1人当たり研究支援者数の推移
注: 学問分野の区分は、大学の学部等の組織の種類による。
資料: 総務庁統計局 「科学技術研究調査報告」
参照: 表4-2-9

参考資料

[1] 総務庁統計局 「科学技術研究調査報告」 (各年版)

[2] 文部省 「学校基本調査報告書」 (平成11年版)

[3] 文部省 「学校教員調査報告書」 (平成10年版)

[4] 平成7年度科学研究費補助金総合研究(A)報告書 「大学等における研究者の生活時間に関する調査研究」(研究代表者, 宅間宏)

第4章  富澤 宏之

神田由美子


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