DISCUSSION PAPER No.39

科学技術コミュニケーション拡大への取り組みについて

 

2005 年 2 月

科学技術政策研究所 第2調査研究グループ

目次

  1. 1. はじめに
  2. 2. 科学意識の現状について
    1. 2.1 関心度の変遷
    2. 2.2 情報源とその入手先
  3. 3. 科学技術コミュニケーターの必要性と養成システムについて
    1. 3.1 必要性
      1. 3.1.1 科学の真の姿を伝えるために
      2. 3.1.2 研究者とメディアとの齟齬を解消するために
      3. 3.1.3 行政と市民をつなぐために
    2. 3.2 科学技術コミュニケーション関連人材養成に対する海外の取り組み
      1. 3.2.1 EU の取り組み
      2. 3.2.2 英国の取り組み
      3. 3.2.3 韓国の取り組み
      4. 3.2.4 中国の取り組み
      5. 3.2.5 オーストラリアの取り組み
    3. 3.3 日本の大学・研究機関等における科学技術コミュニケーションの現状とニーズ
      1. 3.3.1 広報体制
      2. 3.3.2 科学技術コミュニケーション (SC) 教育について
      3. 3.3.3 既存の大学院・講座等
  4. 4. 提言
  5. 5. おわりに
  6. 6. 謝辞
  7. 参考文献及び註
  8. 補遺 大学・研究機関等聞き取り調査メモ

1.はじめに

科学技術理解増進の重要性は、すでに第 2 期科学技術基本計画及び平成 16 年版科学技術白書でうたわれているとおりであり、第 3 期基本計画においても重要課題となると考えられる。

天然資源に恵まれない日本が今後とも科学技術創造立国として発展していくためには、優秀な研究者や技術者を育成していくことはもちろん、国民全体が現在よりもなおいっそう科学技術への興味・関心を持ち、正しく理解していくことが肝要であることは、論を待たない。

しかしそのためには、公衆に対して科学技術理解増進策を一方的に押しつけるのではなく、公衆の関心理解を高めるための方策を講じると共に、科学技術者も公衆の関心のありようを理解し、歩み寄る姿勢が涵養される必要がある。そうしてこそ初めて、科学技術と社会との双方向的な情報の交流を理想とする科学技術コミュニケーションの活性化が実現できる。また、ますますブラックボックス化しつつある先端科学技術に対する不信感や不安を払拭するには、研究機関の透明性を確保すると同時に、研究者が積極的に自らの活動を語ることで、研究活動及び研究者に対する信頼感を醸成する必要がある。それを実現するためにも、科学技術コミュニケーションに積極的に関与する人材の育成が必須である。

科学技術コミュニケーション活性化方策については、科学技術政策研究所調査資料-100 「科学技術理解増進と科学コミュニケーションの活性化について」[1] において詳細に論じた。当報告では、①科学技術コミュニケーションの必要性を改めて指摘すると共に、②科学技術コミュニケーション関連人材の育成への取り組みならびに社会的ニーズ等に関する現状報告と提言を行う。

2. 科学意識の現状について

2.1 関心度の変遷

1976 年から 1998 年まで、科学技術と社会に関する世論調査が総理府によってほぼ5年ごとに実施されてきた。2004 年 3 月には、その継続調査にあたる世論調査が内閣府によって実施された。その結果から明らかになったほぼ 30 年間に及ぶ、科学技術に関する情報に対して人々が関心を有しているかどうかの度合いの推移を示したのが、図 1 である。

質問「あなたは、科学技術についてのニュースや話題に関心がありますか」に対する回答
図 1 科学技術に関する情報に対する関心度・無関心度の推移
図 1 科学技術に関する情報に対する関心度・無関心度の推移

調査項目は、1976 年調査では、「大いに関心がある」と「少しは関心がある」という選択肢の合計を「関心がある」、「関心がない・わからない」を「関心がない」とした。また、1998 年調査では、選択肢「非常に関心がある」と「やや関心がある」の合計を「関心がある」、選択肢「あまり関心はない」と「ほとんど (全く) 関心はない」の合計を「関心がない」とした。

総理府世論調査 (1976、1981、1986、1987、1990、1995、1998 年) 及び内閣府世論調査 (2004 年) より作成。

これによると、「大いに関心がある」及び「少しは関心がある」と答えた人の割合は、1976 年から 1986 年にかけて低下傾向を示したものの、1986 年以降は増加傾向に転じていた。しかし今回 2004 年の調査では、再び低下している。前回の 1998 年の調査以降 6 年の間に 4 人の日本人ノーベル賞受賞者が出たことを考えあわせると、この事態は深刻である。

図 2 は、同じ調査結果のうち、科学技術情報に関心があると答えた回答者の年代ごとの割合を示したものである。1976 年の時点では 20 歳代が関心度の最も高い年代だったが、現時点では最も低い年代となっている。ただしこれは、年代別の傾向というよりは、世代別の傾向の変化とも考えられる。そこで、ほぼ 10 年ごと (1976 年、1986 年、1995 年、2004 年) に行われた調査結果を基に、世代別の関心度の推移 (個々の世代が年齢を重ねるにつれて関心度がどう変化したか) を図にしたのが図 3 である。

質問「あなたは、科学技術についてのニュースや話題に関心がありますか」に対する回答
図 2 科学技術に関する情報に対する年齢層別の関心の推移
図 2 科学技術に関する情報に対する年齢層別の関心の推移

データの出典は図 1 に準ずる。1976 年と 1998 年の調査での 60 歳代は 70 歳以上を含む。 20 歳代は 18 〜 19 歳を含む。

質問「あなたは、科学技術についてのニュースや話題に関心がありますか」に対する回答
図 3 科学技術情報に対する世代別関心度の推移
図 3 科学技術情報に対する世代別関心度の推移

2004 年 2 月時点の年齢構成による世代別関心度を、総理府世論調査 (1976、1986、1995 年) 及び内閣府世論調査 (2004 年) をもとに描く。現在の 70 歳以上については、過去のデータが不足しているため、2004 年分のみを示した。

1976 年の調査以後に低下傾向を示した関心度は、1986 年の時点では、ほぼすべての世代にわたって 50 〜 55% の範囲に落ち込んだことがわかる。そしてそれ以後は、それまではなかった世代間格差が広がっている。すなわち、1986 年時点に 30 歳代、40 歳代だった 2 つの世代の関心度は、1995 年に向けて増加傾向を示した後、その後 10 年間に関心度を低下させている。1986 年次に 20 歳代だった世代の関心度はほぼ横ばいのまま 1995 年に 30 歳代となった後、増加傾向に転じている。また、1995 年以降、20 歳代の関心度は全世代を通じて最低を示しているが、2004 年に 30 歳代を迎えた世代はその間に増加傾向を示している。ただし初期値が低いため、大きな値 (%) とはなっていない。

すなわち、1986 年以降については、すべての世代で、30 歳代から 40 歳代にかけて関心度が増加する一般的傾向も読みとることもできるが、やはり、1995 年以降の 20 歳代の関心が低いことが大きな問題であろう。

2.2 情報源とその入手先

同じ世論調査において、「あなたは、ふだん科学技術に関する知識をどこから得ていますか」と尋ね、複数回答を求めた質問に対する結果が図 4 である。全体的に大きな変化はないが、唯一インターネットの利用率が、この 6 年間で 3% から 11% に上昇している点が顕著な変化である。インターネットによるアクセス先はニュースである可能性が高いとも思われるが、信頼のおけるウェブサイトの整備が望まれる。そのためには、研究機関、大学の広報部がホームページを充実させて、正確でわかりやすい情報発信を行うための態勢の整備 (有能な人材の配置と機関内の協力態勢の整備) が急務であろう。

質問「あなたは、ふだん科学技術に関する知識をどこから得ていますか。この中からいくつでもあげてください」に対する回答
図 4 科学技術に関する知識の情報源
図 4 科学技術に関する知識の情報源
総理府世論調査 (1995、1998 年) 及び内閣府世論調査 (2004 年) より。

人々が科学技術情報への関心を持たない理由の 1 つとして、難しくてよくわからないという意見がある。そこで、同じ世論調査において、「科学技術に関する知識はわかりやすく説明されれば大抵の人は理解できる」と思いますかと尋ねた質問に対する回答結果が、図 5 である。

この 10 年間に、「わかりやすく説明されれば」わかると思うかとの質問に対して[そう思う]と答えた人の割合が 10% 減少していることがわかる。

「科学技術に関する知識はわかりやすく説明されれば大抵の人は理解できる」と思いますかとの質問に対する回答
図 5 科学技術情報のわかりやすさに関する意見 総理府世論調査 (1987,1990,1995 年) 及び内閣府世論調査 (2004 年) より。
図 5 科学技術情報のわかりやすさに関する意見
総理府世論調査 (1987,1990,1995 年) 及び内閣府世論調査 (2004 年) より。

図 5 と同じ質問に対する回答結果を年代別の割合を見たのが、図 6 である。

質問「科学技術に関する知識はわかりやすく説明されれば大抵の人は理解できる」と思いますかに対する年代別の回答
図 6 科学技術情報のわかりやすさに関する年代別の意見
図 6 科学技術情報のわかりやすさに関する年代別の意見
総理府世論調査 (1995 年) 及び内閣府世論調査 (2004 年) より一部改変。2004 年の調査については、60 歳代と 70 歳以上のデータを合算し、計算し直してある。

1995 年の調査と 2004 年の調査を比べると、「わかりやすく説明されれば理解できると思う」と答えた人の減少率は、18 〜 29 歳では 15.1%、30 歳代では 6.5%、40 歳代では 8.8%、50 代以上では 6.9%、60 歳以上では 9.6% となる。全体の減少率は 10% であることを考えると、18 〜 29 歳の年代での減少幅は大きい。また、それぞれの調査年における年代別の割合を見ると、「そう思う」と答えた割合は、1995 年の時点では 18 〜 29 歳が最も多かったのに、2004 年時点では 50 歳代に次いで低い年代になっている。若年層の科学離れがここでも顕わになっていることに留意したい。

同じ調査で、「科学技術について知りたいことを知る機会や情報を提供してくれるところは十分にある」かどうかを尋ねた結果が、図 7 である。

質問「科学技術について知りたいことを知る機会や情報を提供してくれるところは十分にある」に対する回答
図 7 科学技術について知る機会に関する意見 総理府世論調査 (1990,1995 年) 及び内閣府世論調査 (2004 年) より。
図 7 科学技術について知る機会に関する意見
総理府世論調査 (1990,1995 年) 及び内閣府世論調査 (2004 年) より。

科学技術について知る機会や情報の入手先に関する意見は、この 9 年間、ほとんど変化していないことがわかる。科学技術に関する情報源を尋ねた図 4 では、インターネットが急速に普及したこととの関連で、この変化のなさについてはどう考えればよいのだろうか。

一方、質問「あなたは、機会があれば、科学者や技術者の話を聞いてみたいと思いますか」に対する回答をまとめた図 8 を見ると、科学技術者の話を聞いてみたいと思うかとの質問に対しては、「聞いてみたい」という人の割合は減少し、「聞いてみたいとは思わない」という人の割合が増加していることがわかる。

質問「あなたは、機会があれば、科学者や技術者の話を聞いてみたいと思いますか」に対する回答
図 8 科学者や技術者の話への関心 総理府世論調査 (1990,1995,1998 年) 及び内閣府世論調査 (2004 年) より。
図 8 科学者や技術者の話への関心
総理府世論調査 (1990,1995,1998 年) 及び内閣府世論調査 (2004 年) より。

図 8 の質問において、「聞いてみたいとは思わない」と答えた人に、その理由を尋ねた結果が、図 9 である。

図 8 の質問で、「聞きたいとは思わない」と答えた人に、その理由を尋ねた結果
図 9 科学者や技術者の話を聞きたいと思わない理由 総理府世論調査 (1998 年) 及び内閣府世論調査 (2004 年) より。
図 9 科学者や技術者の話を聞きたいと思わない理由
総理府世論調査 (1998 年) 及び内閣府世論調査 (2004 年) より。

図 9 からは、この 6 年間で、聞いても「専門的すぎてわからないから」と答えた人の割合は 52.8% から 34.1% へと減少している一方で、「あまり関心がないから」と答えた人の割合が 22.7% から 32.3% へと増加していることがわかる。また、「身近に感じる機会がないから」と回答した人の割合も、5.6% から 14.3% へと増加している。1998 年の調査では選択項目にないが、2004 年の調査では「聞く必要性を感じないから」との回答が 11.5% あった。

このような「無関心派」の増加は、ある意味では、「専門的すぎてわからないから」と答えた人の増加よりも深刻かもしれない。無関心派を引き戻すためには、まずなによりも、①わかりやすい説明をすることが重要だが、②説明の仕方を工夫するだけでは不十分であり、③科学は意外と楽しく美しく、ときにはおしゃれであるとか、関心や知識を身につけている方が得をするといったように、日常生活を送る上でも科学技術を身近で親しみやすい存在として意識させるための工夫なり施策が必要である。

科学者や技術者に対して、「身近な存在であり、親しみを感じるという意見についてどう思うか」という質問に対する回答も、この結果を反映しているように思われる (図 10)。そうは思わないという意見 (「あまりそう思わない」 + 「そう思わない」) が、なんと 74.3% にも達しているからだ。

質問「科学者や技術者は、身近な存在であり、親しみを感じるという意見についてどう思うか」に対する回答
図 10 科学・技術者を身近に感じるか 肯定的な意見の合計は 15.5%、否定的な意見の合計は 74.3% である。内閣府世論調査 (2004 年) より。
図 10 科学・技術者を身近に感じるか
肯定的な意見の合計は 15.5%、否定的な意見の合計は 74.3% である。内閣府世論調査 (2004 年) より。

以上の結果からは、つぎのような傾向が見て取れそうである。

大切なのは、なによりも科学技術をわかりやすく提示することではある。しかし、科学技術に対する関心が薄れ、身近な存在とも感じなくなっている人々が増加しつつあるという現状を打開するには、単にわかりやすい情報を提供するだけでは不十分と思われる。それに加えて必要なのは、科学技術をより身近な存在と感じさせるためのアプローチなのではないか。このような主張は、現在のわれわれの生活が先端科学技術に支えられていることを考えると奇異に響くかもしれないが、技術や科学を意識しなくても便利な生活をいくらでも享受できるのが、現在の日本の状況である。したがって、科学技術に対する関心を取り戻すためには、従来の「科学技術は役に立つ」「科学はそもそもおもしろい」といった認識に加えて、たとえば科学は楽しい、美しいといった新しい見方を積極的に広めることも重要であろう。

ただし、科学技術のおもしろさ、楽しさを広めるだけでも不十分である。科学技術に対する無関心は、科学技術への不信感と裏腹の関係にあるとも考えられるからである。科学技術研究や行政との疎遠さが無力感を生み、科学技術に対する不満や無関心を醸成しつつあるのかもしれない。このような悪循環を絶つためには、研究者や科学技術研究機関、科学技術行政当局と一般国民は互いに意見を交換する場や機会を増やす努力が必要であろう。そして、科学技術に関する話題が、プラス面もマイナス面も含めて、日常生活で頻繁に語られるような土壌を醸成する必要がある。これが、科学技術コミュニケーションの目指す目標でもある。ここで、前者の、科学技術のおもしろさ、楽しさを広める活動が「すそ野」における科学技術コミュニケーション、言い換えれば「関心の薄い層を狭める」ための活動だとすれば、後者の活動は、「山腹」部における科学技術コミュニケーションと呼べるかもしれない。この関係を図 11 の概念図にまとめてみた。

上流部と下流部では、科学技術コミュニケーションの手法や目標は自ずから異なってくると思われる。今後は、それぞれにおける手法の開発や人材養成等、検討を重ねていく必要があるであろう。

 
図 11 科学技術コミュニケーションの流れと広がり
図 11 科学技術コミュニケーションの流れと広がり

科学技術の専門家と、一般市民のなかでももっとも関心の薄い層を両端とし、その中間層をも巻き込んだ双方向的なコミュニケーションが科学技術コミュニケーションだが、個々の局面ごとにそのレベルは自ずとちがってくる。科学技術政策への参画をも含んだ高レベルでの活動は、いうなれば山腹部の科学技術コミュニケーションと言える。それに対して、もともと関心の薄い「すそ野」部の層とのコミュニケーションにより、科学好き・科学技術に不信感を持たない層を減らす活動は、すそ野部の科学技術コミュニケーションと言ってよいかもしれない。

3.科学技術コミュニケーターの必要性と養成システムについて

3.1 必要性

3.1.1 科学の真の姿を伝えるために

世界的にも科学技術コミュニケーションの重要性に対する認識が高まりつつある情勢の中、我が国においても、科学技術コミュニケーションをあらゆる局面で積極的に推進していくべき時期に至っていると思われる。2004 年 7 月に出された科学技術・学術審議会人材委員会の第三次提言においても、「対話型科学技術社会を構築していく人材の養成」を重点事項として

研究者と社会をつなぎ、また、科学技術に対する意識と理解の涵養、科学リテラシーの向上を図り、科学技術と社会との間の双方向のコミュニケーションを可能とするような、いわば対話型科学技術社会の実現に向けた人材を養成する必要がある。

とうたっている。[2]

科学技術コミュニケーションの普及を阻んでいる要因の 1 つは、社会及び科学者コミュニティ自体が、科学と科学者に関して抱いている誤解ないし幻想かもしれない。「科学とは真理の探究であり、科学者は真理の探究者である」との一般認識は、はたして正しいだろうか。

免疫学の研究により 32 歳の若さでノーベル賞を受賞したイギリスの P・B・メダワーは、「科学とは解明可能な問題を解くためのアートである」と語っているという ([3] も参照)。つまり、科学とは知識ではなくあくまでも方法であるということである。多くの人が指摘するように、一般の人々が社会生活を送る上で必要な科学の素養は、単なる知識ではなく、むしろ科学的な考え方や方法なのである

また、科学は絶対的真理の追求ではなく、科学者は必ずしも正しい答を知っているわけでもない。しかも、今や科学はすさまじいばかりに多様化しており、科学者たちにしても、異分野の科学に関してはまったくの門外漢というのが実情である。ところが世間の認識はそうではない。

では、科学者や科学に対する一般人の認識の溝を埋めるには、どうすればよいのだろうか。まず第一には、科学、科学者といっても多様であることを認識すべきであろう。次に重要なのは、科学技術コミュニティと社会との相互理解を深めることであろう。そのためには双方向的なコミュニケーションが重要であり、それこそが科学技術コミュニケーションなのである。そこで科学者が語るべきは、自らが専門とする分野の知見であり、科学者として自ら体験している喜びや苦悩だろう。今後、科学技術コミュニケーションを推進する上では、このような認識や手法が実践されることが望ましいと思われる。

そこで改めて問題となるのが、そもそも科学技術コミュニケーションとは何かである。科学技術政策研究所調査資料-100 では、「国民全体あるいは個々のコミュニティーの科学知識や科学に対する意識を高めるためのコミュニケーション」[1] を科学 (技術) コミュニケーション (サイエンスコミュニケーション) と呼んだ。一方、オーストラリア、ニューキャッスル大学のバーンズらは、

科学意識
(Awareness of science)
楽しみ
(Enjoyment)
興味
(Interest)
意見
(Opinion)
科学理解
(Understanding of science)

といった科学に対する個人的反応のいずれか 1 つないし複数を生み出すために適切な技量、メディア、活動、対話を用いることをサイエンスコミュニケーションと呼ぼうと提案している[5]。この頭文字をとったアエイオウ (AEIOU) 反応を引き出すための営為が、科学技術コミュニケーションというわけである。

3.1.2 研究者とメディアとの齟齬を解消するために

科学技術報道に関して、科学技術者と科学技術系ジャーナリストとのあいだで、とかく軋轢が生じがちである [4]。その原因としては、科学技術者の多くはメディア対応に不慣れである一方で、科学技術系ジャーナリストは報道の専門家ではあるが科学の全般に通じているわけではない点もあげられる。この点を解消するには、主要な大学・研究機関の広報部門を拡充し、科学技術研究に習熟しメディア対応にも長けた科学技術広報の専門担当者を配置することが有効な方策であろう。日本で科学広報の専門家を抱えている大学・研究機関はごくごく少数だが、欧米の主要な研究機関には必ず科学広報の専門家がいて、科学者とジャーナリストの間を取り持つなど、重要な役割をはたしている。しかもそのための人材養成機関も数多く存在している ([1] を参照)。

科学技術広報は、研究成果の単なる宣伝係ではない。大学、公的研究機関、科学財団、科学系博物館、科学技術系企業などの広報部門に所属し、プレスリリースなどのメディア対応、アウトリーチ活動、広報誌の執筆編集、ウェブサイトなどによる情報発信、職員のメディア対応指導等が職務となる。宣伝はブランドイメージなどを売り込むことが主たる任務だが、広報は、機会をとらえて研究活動の実態や成果を理解してもらうと同時に、研究者によるアウトリーチ活動の促進及び支援なども、重要な仕事なのだ。英米では、広報担当者の多くがサイエンスライター協会に所属している (表 1)。

表 1 の科学技術系ジャーナリスト組織が個々の国の実情をどれほど正確に反映しているかは不明だが、それでも、研究者・技術者総数に比して、日本の科学技術・医療系ジャーナリスト組織の会員数は格段に少ない。しかも日本では、研究機関の広報担当者がその種の組織に属している例は、元科学記者が顧問をしている場合を除いてほとんど皆無と思われる。英米では、科学技術広報担当者はサイエンスライターとして位置づけられ、相応の活躍が期待されており ([1] を参照)、いくつもの大学が養成コースを設置している。

表 1 日米英の科学技術者数と科学技術系ジャーナリスト組織会員数の比較
 
自然科学系
研究者総数
科学技術系
ジャーナリスト組織
会員数
大学の科学技術系
ジャーナリスト養成専門
コース数
備考
日本 675,898 名 およそ 380 名
(2004 年時点)
0 校 「日本科学技術ジャーナリスト会議」 (150 名): マスメディアの科学技術ジャーナリストが中心 (科学技術者等も含む)。
「日本医学ジャーナリスト協会」 (正会員数 230 名): 記者、編集者、評論家、作家、ライター、研究者、医師、コメディカル*) 等の、医学ジャーナリズムに関わる分野で活躍している人。ほかに、賛助会員が 113 名。
米国 1,261,227 名 およそ 2,500 名
(2003 年時点)
45 校 「米国サイエンスライター協会」: 6 割が科学技術系ジャーナリスト、残り 4 割は広報担当者、全体の 3 分の 1 はフリーランス。
英国 157,662 名 900 名
(2004 年時点)
28 校
(特化した全日制は 4 校)
「英国サイエンスライター協会」: あらゆるジャンルの科学技術系ジャーナリスト、科学技術関連団体 (民間企業を含む) の広報担当者、学生会員を含む。
  1. 1) 自然科学系研究者総数は OECD Main Science and Technology Indicators 2003 による。
  2. 2) 会員数は各組織の事務局からの提供。
  3. 3) ここでいう養成専門コース数とは、大学の学部ないし大学院に設置された、科学技術系ジャーナリスト養成を目的とした正式なコース。コース数は、渡辺と今井 (2003) [1] による。
  4. *) コメディカルとは、医師以外の医療従事者の総称。
3.1.3 行政と市民をつなぐために

科学技術に対する人々の無関心は、研究者や科学技術、行政に対する不信感や無力感に発している可能性がある。その意味で、2.2 の末尾でも触れたように、山腹部の科学技術コミュニケーションを取り持つ人材が必要である。民主的な政策立案という理想実現に一歩でも近づくためにも、科学者や技術者と市民がいっしょになり、今後の科学のあり方を論じたり、科学技術行政に対する積極的な提言を行うことが重要である。そのための、科学技術と市民をつなぐ科学技術コミュニケーターの必要性がますます高まってくる。たとえば、最先端科学技術の重要課題に関するコンセンサス会議を市民の側から主体的に組織するような人材がそれにあたる。そのような人材が活躍する場は、市民の立場から科学技術行政への参加を目指すNPO等の非営利団体や、企業・法人等のアウトリーチ部門の担当者であったりする。

また、その種の非営利団体が科学技術コミュニケーションに従事するための積極的な財政支援も必要と思われる。

3.2 科学技術コミュニケーション関連人材養成に対する海外の取り組み

以下、参考のために海外での取り組み状況に関する知見を報告する。

3.2.1 EU の取り組み

EU は、2004 年 5 月 11、12 日に、Communicating European Research という名称の国際会議を開催した[6]。その趣旨は、EUで行われている科学研究プログラムに関する情報を積極的に発信し、知識の共有、公衆の意識向上、透明性の確保、教育の推進等を図ろうというものである。会議では、メディアを活用した情報発信の仕方をめぐって議論が交わされたが、このような会議が開催されたことは、科学技術コミュニケーションの重要さに対する認識がますます高まっていることの証左であろう。

ヨーロッパではまた、科学技術コミュニケーション教育に携わる大学教官のネットワーク (ENSCOT) が結成され、科学技術コミュニケーションを活性化するための連携も行われている [7]。そして 2004 年 8 月には、第 1 回の「ユーロサイエンス・オープンフォーラム」が開かれ、「科学と社会」に関するセッションが数多くもたれている[8]

3.2.2 英国の取り組み

英国では、BSE騒動で科学行政が国民の信頼を失った苦い経験を踏まえ、科学技術コミュニケーションに力を入れている。その一環として、ブリティッシュ・カウンシルでは、2003 年から、海外からの参加者を募って「サイエンスコミュニケーション」セミナーを開催している。

第 2 回セミナーは、2004 年 4 月に、科学フェスティバル開催中のエジンバラで開催された[9]。ディレクターは BBC ラジオなどで活躍するキャスターで、講師も BBC のレポーターやマスメディアに登場する機会の多い科学者などの科学技術コミュニケーターであり、マスメディアを念頭に置いた内容となっている。セミナーに参加して印象的だった講師陣の言葉を以下にあげる。

英国のサイエンスコミュニケーションへの積極的な取り組みは、いずこも同じ理科離れ対策と、狂牛病騒動が科学者・科学行政当局への不信感を生んだという反省に立脚している。そのため、研究者の顔が見える科学技術、研究の透明性、研究者の説明責任等が特に重視されている

表 1 でも示したように、英国にはサイエンスジャーナリスト、サイエンスライター、コミュニケーターを養成するために専門コースを持つ大学が 28 校ある。その中でも代表的なコースの1つであるロンドン大学ユニヴァーシティカレッジ科学社会論コースのカリキュラムを参考までにあげておこう (表 2)。

表 2 英国ユニヴァーシティカレッジ科学社会論学科のカリキュラム
コミュニケーションサイエンスコミュニケーション概論
科学理解増進概論
マスメディアにおける科学
ポピュラーサイエンスのレトリック
サイエンスライティング上達法
科学的概念のコミュニケーション
科学と社会科学と近代社会
科学史
科学哲学
科学社会学
STS (科学技術研究) 方法論
科学技術政策概論
科学政策研究概論
科学革命
生物科学の哲学
近代生物学史
生命科学をめぐる政策上の処問題
「新しい遺伝学」と社会
創造的な科学思考
物理科学史概論
魔術から科学へ
天文学と宇宙論の歴史
ダーウィンの遺産
科学のアウトサイダー
芸術、科学、文化
1) 同コースのホームページ http://www.ucl.ac.uk/sts/ より
3.2.3 韓国の取り組み

韓国では、韓国科学文化財団の全面的支援の下、ソガン大学新聞放送学科が中心となり、テジョンの研究機関広報担当者とキー・サイエンティストを対象とした、サイエンスコミュニケーションの短期コース (週1回夜間90分×2、10週間) を2003 年から実施している (受講料無料)。そして2004 年春からは、サイエンスコミュニケーションの修士課程 (2 年間、定員10人) を開講している (応募した学生9人のうちの6人に科学財団が奨学金を支給予定で、授業料に関しては全員免除)。そのカリキュラムを紹介しておこう (表 3)。

表 3 韓国ソガン大学大学院サイエンスコミュニケーションコースのカリキュラム
コミュニケーションサイエンスコミュニケーション理論
サイエンスコミュニケーションの研究方法
科学ジャーナリズム
サイエンスコミュニケーションとデジタルコミュニケーション
放送におけるサイエンスコミュニケーションと視覚コミュニケーション
科学の宣伝と PR
健康医療コミュニケーション
環境コミュニケーション
サイエンスコミュニケーション特論1
サイエンスコミュニケーション特論2
科学と技術近代科学と自然
近代技術と社会
科学リテラシーと情報
先端科学技術
科学技術特論 1
科学技術特論 2
科学と社会科学哲学
科学社会学
科学史
技術管理と経済
科学技術政策
科学と社会特論 1
科学と社会特論 2
1) 同コース学科長リー・ドクワン教授提供
3.2.4 中国の取り組み

中国政府は、従来から国民の科学リテラシー育成を重視し、経済社会発展にとって重要な懸案であるとの立場をとってきた。しかし現状は、国民全体の科学リテラシーは先進国に大きく後れをとっており、しかも国内における地域間格差も著しい。そのため、国民全体の科学リテラシー向上を長期的な重要目標として位置づけており、中国科学技術協会は、「全民科学資質行動計画 (2049行動計画) 」を作成中である。これは、建国 100 周年にあたる 2049 年を目指し、成人の科学リテラシーを先進国並に向上させるための、長期的な国家計画となる。

2004 年 7 月には、中国科学技術協会の主催で「国民科学資質建設国際フォーラム」が開かれた。開催目的は、「国民科学素養 (科学リテラシー) 建設」に関わる理論と実践面における世界の発展動向を把握すると同時に海外の研究者との交流・協力を強化し、全民科学素質行動計画 (達成目標2049 年) 策定作業の開放性を高め、さらなる研究の促進を図ることにあった。そのほか、2003 年から、中国科学院の人文学大学院にサイエンスコミュニケーター養成コースが設置されているなど、中国の意気込みは高い。

3.2.5 オーストラリアの取り組み

これまでオーストラリアでは、オーストラリア国立大学 (ANU) にのみサイエンスコミュニケーションコースが設置されていたが、最近になって他の大学でも同様のコースが設置され始めているという[10]。オーストラリア国立大学 (ANU) 理学部に科学意識向上センター (CPAS) が設置されたのは 1996 年のことである。そこでは主に、学部生、学士 (学部卒)、大学院生を対象とした 3 つのコースを実施している。

学部生向けには、副専攻として、サイエンスコミュニケーション専攻 (学士号を授ける) コース (オーストラリアはダブルメジャー――専攻を 2 つとる――システム) を開設している。主専攻としては科学系の学科をとることを奨励しており、サイエンスコミュニケーションの技量と志向を持った研究者・技術者・教育者・社会人を育てることを第一目的としている。講義科目は、表 4 のとおりである。

表 4 オーストラリア国立大学理学部
「サイエンスコミュニケーション専攻」カリキュラム
学年科目
1 年時科学と公衆の意識
2 年時サイエンスコミュニケーション
3 年時科学ジャーナリズム
4 年時科学、リスク、倫理
1) 同大学科学意識向上センター助教授スーザン・ストックルマイヤー博士提供

学士向けプログラムとしては、学卒者を対象とした1 年間のプログラム「シェル・クエスタコン・サイエンスサーカス」を、国立科学技術センターの科学館クエスタコンと共同で実施している。これは応募者から15名を選抜し、巡回科学教室のサイエンスコミュニケーターとして従事させるプログラムである。修了者はそれぞれに高い目的意識を獲得し、さまざまなジャンルで活躍中 (研究機関広報、マスメディア、行政機関、科学館、科学振興機関等) とのことである。

大学院としては、修士課程 (1 年) と博士課程を設置している。研究テーマは、サイエンスコミュニケーションにとどまらず多岐にわたると同時に、社会人入学の学生も多いことが特徴である (ただし社会人は、修士課程の修了に2〜3 年かかるケースが多いのが難点)。

同センターのディレクターを務めるスーザン・ストックルマイヤー博士によれば、同センターのいちばんの特徴は、単なるコミュニケーションの専門家ではなく、科学のなんたるかをよく知っている教官が指導にあたっていることと、メディア重視のヨーロッパのサイエンスコミュニケーション教育とは一線を画している点だという。メディア重視がすぎると、情報が一方通行に流れて終わるだけということになりがちである。また、PUR (科学研究公衆理解) は、遺伝子組み換え食品について語るのは研究者ばかりというように、研究者サイドのお話に陥りやすい。科学ジャーナリズムの授業は科学技術系ジャーナリストに講師を依頼しているが、経験談に流れるだけのではなく、科学ジャーナリズムのノウハウをきちんと教えることが重要であるという

オーストラリア最大の国立研究機構複合体である連邦科学産業研究機構 (CSIRO) は、本部に50名、各研究機関に10名あまりずつのサイエンスコミュニケーション担当者 (広報、産業連携、教育等を含む) を抱えている。そのほかの公営機関や民間企業の広報部門、マスメディア等が、コース修了者の重要な就職先となっている。また英国に渡り、英国科学振興協会 (BA) などで活躍する人材も排出している。

3.3 日本の大学・研究機関等における科学技術コミュニケーションの現状とニーズ

科学技術コミュニケーションという言葉及び概念は、1993 年に開設された JT 生命誌研究館が、自らの先進的な取り組みを「サイエンスコミュニケーション」と位置づけてきたことを除けば、わが国ではまだなじみが薄いといってよいだろう。ただし、科学技術調査研究所調査資料-100 [1] が科学 (技術) コミュニケーションの活性化を提言したのを皮切りに、『平成 15 年度 科学技術の振興に関する年次報告』 (『科学技術白書』) でも科学技術コミュニケーションの活性化とそのための人材 (科学技術コミュニケーター) 養成に対する要望が高まりつつあるとしている。

そこで、わが国における科学技術コミュニケーションの現状を把握する一助として、11 カ所あまりの大学、研究機関、企業で聞き取り調査を行った (補遺参照)。その中で浮き彫りとなった現状と課題、問題点は、これまでのところ以下の通りである。

3.3.1 広報体制
  1. 大学法人化に伴い、大学のイメージアップ作戦には力点が置かれつつある。ただし、科学技術研究に関する広報体制は、適切な能力を備えた専任者を置けないなど、必ずしも十分ではない。現状は人手不足・人材不足である
  2. 即戦力の人材としては、編集ノウハウ、理工系知識のバックグランドを備えた人が望ましい
  3. 研究成果の情報発信、教育広報に対する組織全体の意識が高まれば、任期付き職員ないし特任教官という形での専任者の採用は可能ではある。しかし現状では組織全体の意識が低く、実現は難しい
  4. 文部科学省からの大号令がかかれば、学内・研究所内の意識も、比較的早く変わるかもしれない。
  5. 民間企業や私立大学の広報に学ぶ点も多い ―― 企業広報は、明確な目標設定、リスク管理、経営者的センスの面で優れている。
  6. 企業が行う広い意味での広報すなわちパブリック・リレーションの使命は、宣伝費をかけない宣伝、社内から発信すべき情報を積極的に収集して発信する活動であり、あくまでもコマーシャルとは別。
  7. 広報においては、わかりやすいプレゼンテーションが重要。このためスタッフは、研究者から情報を引き出すテクニックも必要
  8. 研究機関内ないし社内の各部門において、メディア対応の人材が固定してくる傾向がある――メディアに対応できる人材は限られている。
3.3.2 科学技術コミュニケーション (SC) 教育について
  1. 研究業績重視の組織では、SC教育に対する認識が低いのが現状。
  2. 学生、若手研究者は、総じてSCに高い関心をもちつつあるのに対し、年配の教官・研究者の多くは、説明責任に対する自覚が薄いのが現状。
  3. SCを活性化させるには、研究者・教官個々人の自覚を芽生えさせる必要がある。
  4. その一方で、自分の研究の背景を語れない研究者が多い (プレス発表などで)。
  5. 社会に出ても役立つ、研究費獲得に役立つといったインセンティブがあれば、学生も教官も研究者も、SCのスキルアップに積極的に取り組むであろう。
  6. 修士レベルで就職を目指す学生では特に、社会に出て役立つスキルを身につけたいという意識が高い
  7. ただし、SCに特化した教育は、将来 (就職先など) が見えないかぎり、学生も不安であろう。
  8. たとえば研究者が研究活動を行っていく上で、プレゼンテーション、面接、研究費申請書等の訓練ないし助言を受けているいないで、就職採用試験、競争的研究費獲得などにおいて、成果に明らかな違いが出ることを実感させれば、意識は高まる。
  9. SC教育は、知財、MOT (技術マネジメント) 関連の人材育成とも関連しうる。
3.3.3 既存の大学院・講座等

科学技術系ジャーナリストの養成を目的とした大学院のコースは存在しないが、科学技術コミュニケーション関連の人材養成を視野に入れたコースとしては、当方で把握しているものとしては以下の 5 つがある。

 
コース名特徴
大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻 (連携大学院 生命誌館) JT生命誌研究館のサイエンスコミュニケーション&プロダクション部門において、科学を社会に伝える方法を研究できる。
京都大学大学院生命科学研究科生命文化学講座生命科学研究から得られる知識 (情報) と知恵を社会と共有するためのサイエンスコミュニケーションの実践と研究を目指す。
名古屋大学大学院国際言語文化研究科
国際多元文化専攻メディアプロフェッショナル論講座
名古屋圏のメディア・企業関係者が講師として参加。広報関連人材の養成を目的とする。
東京大学大学院情報学環・学際情報学府社会情報研究所 (旧新聞研究所) との合併を果たし、メディア・情報・文化・社会をトータルな研究テーマとして設定している。
大同工業大学情報学部情報学科
メディアコミュニケーションコース
理系の知識を踏まえて文系の感性を活かし、メディア開発のできる人材育成を目指す。

そのほか、平成 17 年度以降の開設予定のコースとして、以下の 2 つがある。

 
コース名特徴開設予定年度
大阪大学コミュニケーションデザインセンター全学共通利用施設として、主に大学院生を対象に、コンセンサス会議、サイエンスショップなどの実践を通じて、種々のコミュニケーション向上を目指す。平成 17 年度
北海道大学大学院理学研究科教育・コミュニケーション専攻 (仮称) *)既存の科学史・科学論講座と高等教育機能開発センターを核に、北海道大学における教育研究活動との連携を図り、科学技術コミュニケーション人材の養成を目指す。平成 18 年度開設に向け申請準備中
*) 同大学院杉山滋郎教授提供

4.提言

一般的に我が国の大学・研究機関、ならびにそこに在籍する研究者の多くは、自らの研究に対する説明責任、透明性の確保、信頼感の醸成に対する意識が未だに薄いというのが実情である。

また、一般の人々や他分野の研究者向けに情報を発信したいと考えている研究者、あるいは発信していると自負している研究者でも、その手段や手法に不案内であったり、コミュニケーションスキルが不足している場合が、ままある。まずは学部生・大学院生の時代から、ライティングとプレゼンテーションを重視した基本スキルを学ばせる必要がある。

そこで、充実させるべき今後の主な課題としては、以下のものが考えられる。

  1. (1) 大学院生ないし学部生を対象とした科学技術コミュニケーション・プレゼンテーション教育の実施。及びそれを担当する講座の設置
  2. (2) 研究者に対するメディア対応・科学技術コミュニケーションスキルアップ用トレーニングコースの実施
  3. (3) 科学技術コミュニケーションのスペシャリスト養成のための専門職大学院等、専門家養成システムの設置
  4. (4) 理科教員の再教育コースの設置
  5. (5) 大学・研究機関広報部の拡充と科学技術広報担当者の採用
  6. (6) アウトリーチ活動を研究者及び研究機関の評価対象として重視する

具体的には、下記のような、科学技術コミュニケーター養成システム、理科教員の再教育システム等を充実すべきである。ただしここで留意すべきは、「科学技術コミュニケーター」とは、必ずしも職業ではなく、一義的にはあくまでもコミュニケーションという機能を果たす人の総称であるという点である

(1) 学生への科学技術コミュニケーション (SC) ・プレゼンテーション教育の実施

総合的な科学技術コミュニケーション実践教育システム

スペシャリストの養成ではなく、科学技術コミュニケーションという精神(マインド) をできるだけ多くの学生に植え付けるための教育として、以下のような取り組みが望ましい。

(カリキュラムの内容)
例:
科学技術コミュニケーション講座

科学技術コミュニケーション精神の涵養から一歩踏み込み、できるだけ多くの学生にスキルを習得させるための教育として、以下のような取り組みが望ましい。

(プログラムの内容)

(2) 研究者の科学技術コミュニケーションスキルアップ用トレーニングコースの実施

研究者に科学技術コミュニケーション精神を植え付けると同時に、そのスキルを磨かせるためのプログラムを実施すべきである。具体的には以下のような取り組みが考えられる。

(プログラムの内容)

(3) 科学技術コミュニケーション専門家養成システムの設置

スペシャリスト養成のためのコースを設置すべきである。その内容に関しては、下記のような点に留意することが望ましい。

(プログラムの内容)
例:

(4) 理科教員の再教育コースの設置

理科教員は、日々生徒と接するばかりでなく、保護者や地元コミュニティとも密接な関係にあり、科学技術コミュニケーションの一翼を担う重要な存在である。したがって、研究現場との交流や、最先端研究に関する知識の更新等を行う機会を増やすことが重要である。そのためには、下記のような再研修プログラムを設けることが望ましい。

(プログラムの内容)
例:

(5) 大学・研究機関広報部の拡充と科学技術広報担当者の採用

科学技術研究の透明性確保や説明責任を果たすためばかりでなく、科学技術研究機関が科学教育に果たす役割も大きい。そこで忘れられがちなのが、一般向けの教育活動を重視した「教育広報」の重要性である。科学技術広報担当者は、メディア対応だけでなく、一般の人々を対象とした研究者によるアウトリーチ活動の支援促進にあたると同時に、自らもそうした活動を実践できる人材であることが望ましい。

上記 (3) の科学技術コミュニケーション専門家養成システムを設置するにあたっては、修了した人材 (ポスドク等を含む) の雇用先に関する懸念が先行しているが、大学及び研究機関が科学技術研究広報及び教育広報の専任者を積極的に雇用することで、とりあえずその懸念は払拭されるであろう。

(6) アウトリーチ活動を研究者及び研究機関の評価対象として重視

3.3 日本の大学・研究機関等における科学技術コミュニケーションの現状」でも述べたように、わが国の大学・研究機関、及び科学技術研究者のあいだでは、一般市民への情報発信及び対話を実践するアウトリーチ活動の必要性に関する認識がまだまだ低い。このような現状を変えるには、科学コミュニケーション精神に立ったアウトリーチ活動を、研究者及び機関の評価対象として重視する必要がある。

サイエンスコミュニケーションの先進国である英国や米国においても、アウトリーチ活動が評価の対象とされないかぎり、アウトリーチ活動の促進は困難であるとの認識がある。

5.おわりに

科学技術コミュニケーション関連人材養成の必要性とその方策について論じてきたが、そうした人材の受け入れ先に関しては、現状では未だ不十分と言わざるを得ない。このような現状は、研究者及び研究機関・大学が危機感をつのらせないことには、なかなか改められないかもしれない。まさに彼らこそが、一般国民の科学離れをもっとも憂えねばならない当事者である。国民の科学離れは、研究者を孤立させ、やがては研究予算の縮小をもたらしうるからだ。科学技術研究予算削減の動きは、合衆国ではすでに始まっており、米国科学振興協会 (AAAS) は危機感をつのらせ、研究者のアウトリーチ活動への参加をよびかけている[12]。わが国でも、日本学術会議が研究者のアウトリーチ活動を促進するための取り組みに乗り出している。

もちろん、科学技術コミュニケーションは研究費獲得のための方便ではない。しかし、科学技術者の側から働きかけないかぎり、一般の人々 (あるいは他分野の科学技術者) の関心や意識を引き戻すことはかないそうにない。

こうした困難な状況の中でも一縷の光は見える。大学の学部生をはじめとする若い世代で、「科学技術コミュニケーション」という考え方や動きに高い関心を寄せる人たちが決して少なくないことである。ところが、そうした意識を持つ人たちを伸ばすための方策が、現時点では欠けている。そのためにも、本報告書の提案が、一部なりとも早急に実現に移されることを切に願ってやまない。

なお、本報告書は「科学技術コミュニケーション活性化」に関する一連の調査研究の一環であり、今後とも調査分析を深めていく予定である。

6.謝辞

本報告書をまとめるにあたり、お忙しい中、インタビュー調査に協力しくださり、調査メモの掲載を許可してくださった各機関担当者の方々に、深甚なる謝意を表する。

参考文献及び註

  1. [1] 渡辺政隆、今井寛 (2003) 「科学技術理解増進と科学コミュニケーションの活性化について」科学技術政策研究所調査資料-100
       註) 調査資料-100 では「科学コミュニケーション」という呼称を用いたが、本報告書では「科学技術コミュニケーション」の呼称を使用する。
  2. [2] 「科学技術と社会という視点に立った人材養成を目指して」科学技術・学術審議会人材委員会 第三次提言 (2004.7)
  3. [3] 渡辺政隆「科学コミュニケーション人材の養成に向けて」『遺伝』2005 年 1 月号;75〜80.
  4. [4] http://www.europa.eu.int/comm/research/conferences/2004/cer2004/index_en.html
  5. [5] 「基礎科学の広報と報道に関するシンポジウム」 (国立天文台,2002.12.3)
  6. [6] Burns et al., 2003, "Science communication: a contemporary definition", Public Understanding of Science 12: 2;183-202.
  7. [7] The ENSCOT Team, 2003, "ENSCOT: The European Network of Science Communication Teachers", Public Understanding of Science 12: 2;167-181.
  8. [8] http://www.esof2004.org/index.asp
  9. [9] http://www.britishcouncil.org/seminars/seminars-archive/seminars-science-0423.htm
  10. [10] ANU のストックルマイヤー博士の私信によれば、ニューサウスウェールズ大学、シドニー大学、クウィーンズ大学、セントラルクウィーンズ大学、グリフィス大学、西オーストラリア大学等に導入されているという。
  11. [11] 中村隆史、大沼清仁、今井寛 (2004) 「学校教育と連携した科学館等での理科学習が児童生徒へ及ぼす影響について - 学校と科学館等との連携強化の重要性 -」科学技術政策研究所 調査資料-107
  12. [12] Leshner, A.I., 2004, "A Dangerous Signal to Science", Science 306: 2163.

補遺 大学・研究機関等聞き取り調査メモ

(調査実施日順)
  1. 1. 総合研究大学院大学
  2. 2. 九州大学本部
  3. 3. 東京大学本部
  4. 4. 東京大学理学部
  5. 5. 放射線医学総合研究所
  6. 6. 社団法人日本技術士会
  7. 7. 徳島大学
  8. 8. 国立遺伝学研究所
  9. 9. ㈱ 島津製作所広報・IR グループ
  10. 10. 和歌山大学
  11. 11. 日本 IBM 株式会社

1. 総合研究大学院大学

対応者:
教育研究交流センター教授
日時:
2003 年 10 月 2 日
概要:
(1) 広報全般について
  • 若手 (院生) をライターとして育てるためにジャーナルを発行。ただし、若い人の文章ほどわかりにくい→基礎学力 (専門の基礎、社会リテラシー) の不足。
  • 現在の広報は宣伝と教育だけで、「知識を与えてやる」という意識に立った、いわゆる欠如モデル的な一方通行のコミュニケーション。双方向的なコミュニケーションが必要。
  • 日本では院生に対するコミュニケーションスキルアップ教育がなされていない点で、米国の博士号取得者との違いが出ている。
  • 米国では研究者がNSFに出向し、5 年後には好きな大学に戻れる制度がある。
  • そのおかげで、教官間の異分野交流がしやすい。
  • 教養とは、異分野の存在を知ることが第一歩。
  • 研究者の科学離れが著しい (関心も能力もない)
  • 教員免許的なコミュニケーター資格を設けるべき。
  • 研究費申請書の書き方、非専門家の説得の仕方等のスキルが必要。

2. 九州大学本部

対応者:
総務課長、人事課長、企画課長、主席広報担当
日時:
2004 年 2 月 17 日
概要:
(1) 広報体制について
  • 広報担当者は総務課の 3 人。広報誌の発行、プレス発表、ホームページの管理までこなしている。
  • 広報専門官を任期付きでヘッドハンティングし強化する方法もある。
  • 国立大学の広報は、ここ 6、7 年で大きく変わった。
  • 文科省 (当時は文部省) が国立大学の広報誌のランク付けを行い表彰したことが大きかった。
  • しかし、私大との差はまだまだ大きい。ホームページなどいろいろな面で、早稲田、慶應、立命館などを参考にしている。
  • アピールのしかたが下手で検討の余地が多い。
  • 私学は資金 (寄付金) と直結するからか、PR が上手であると感じる。
  • 広告代理店にコンサルタントを依頼すれば、1 回 500 万ほどかかる。
(2) 広報の人材・情報発信について
  • 広報専門官を任期付きでヘッドハンティングし強化する方法もある。
  • 知財本部総勢 32 人のうち、5 人を外部から雇用した実績はある。
  • 広報誌の編集では、特に「研究紹介」のページが難しい。広報担当者が学内全ての研究を把握、熟知しているわけでもないため、教員の原稿に注文をつけ難い。
  • 広報誌は隔月発行で、企画編集に苦労している。スキルを持つ専門家のアドバイスがほしい。
  • 月 1 回、大学記者会と記者懇談会を開いている。毎回、教員2人をピックアップし、研究紹介をしてもらっている。
  • しかしプレゼンのスキルに差があり、プレゼンの内容次第で記者へのアピール度が変わる。簡単なプレゼン要領を事前に渡すなどしているが、期待する効果は容易に現れない。
  • 研究者による研究紹介・プレス発表では、研究の広がり、社会との関わり、位置づけなどをわかりやすくアピールできる人が少ない。
  • 聞く側の記者のバックボーンや視点も様々であり、できるだけ多くの記者の関心を呼ぶ配慮が必要。
  • 知財と広報部門は、素人には難しい。スキルやセンスを持った人材の確保が必要。
  • 5 月 11 日の開学記念日に大学開放を実施しているが、PR 不足で人の集まりが悪い。ただし、参加した市民の評判はよい。
  • コミュニケーション、PR の必要性に対する自覚に乏しい教員もいる。トランスレーターが必要。
  • MOT (技術経営) の関連で、科学技術がわかる経営者が求められている時代。
(3) 人材養成
  • 工学部エネルギー科学科では、市民を相手にした学生の研究発表会を開いている。建築学科も、「天神の未来」といった研究プロジェクトを発表している。
  • 学部、大学院レベルで、それ以外にプレゼンテーション、コミュニケーションのスキルアップをしている例はあまり聞かない。
  • 宇宙飛行士の若田光一さん (九大出身) によれば、NASAのマスメディア対応教育はすごい。
  • 福岡で開かれたロボカップに参加した九大チームは、大学開放日のプレゼンもうまかった。
  • 産学連携で、民間企業とのリエゾンを図るための説明スキルが求められている。
  • 原子力工学など、社会との対話が必要な分野は、コミュニケーションスキルをアップする教育が必要なのではないか。
  • 外部資金導入が推奨され、文系の先生も申請書を書くようになり、プレゼン能力の重要さに目覚め始めている。

3. 東京大学本部

対応者:
事務局長、研究協力課長、広報掛長
日時:
2004 年 2 月 19 日
概要:
(1) 広報体制全般について
  • 広報体制の強化を検討中。
  • 4月から広報担当理事 (学内者) を任命し、学外の人材も導入する予定。
  • 戦略的広報により、東大理解者増を目指す。シンボルマークやロゴの設定など。
(2) 広報の人材・素材について
  • 広報の素材・研究人材は豊富だが、現状では活かしきれていない。
  • プロの広報担当者も必要。
  • ターゲットを絞った広報が課題。
(3) 情報発信について
  • 大学中期目標の柱の1つは「情報発信」
  • 部局ごとの発信情報の共有を図るため「東京大学総合情報システム機構 (仮称) 」の設置を構想中。
  • ホームページに関しては、学内各部局ホームページに掲載している最新情報の集約等を検討中。
    1. ① 米国の大学では必要な基本データが入手可だが、日本では冊子媒体のデータが主になっているのが現状。
    2. ② 基本デザインは外注。複雑な内容は更新頻度が低くなりがち。各部局の情報更新頻度に差がある。
  • COE シンポジウムなどのシンポジウム、公開セミナー等は、部局や研究グループごとに別個に実施。本部では把握しきれていないのが現状。これらの情報収集も今後の検討課題。
  • 公開講演会に対して教員は協力的。ただ、講演者の知名度が高いと多様な聴衆が集まるが、内容が専門的で難しそうだと聴衆の入りが悪い。
  • 研究成果の公表は、部局、研究室ごとに別個に実施する場合と本部広報を通す場合があるが、今後は本部広報に情報を集中して行きたい。
  • 『ネイチャー』誌への論文掲載に関しては、本部にメールで連絡があり、該当教員に会見等の打診をしている。
  • 外部評価の主眼は競争的資金の獲得だが、情報発信による評価も加味したい。コミュニケーターは意欲をかき立てる役。
(4) 人材養成
  • 社会情報研究所 (4月 1 日付けで情報学環と合同予定) では、新聞ジャーナリズム教育を実施中。
  • 参加者は、東大2 年次以上、卒業者、他大学の同資格の者。2 年コースで50名。現時点の在籍者は135名 (東大生106、その他29名)。
  • ポリシーメーカーの人材養成が必要。

4. 東京大学理学部

対応者:
広報委員長、広報室スタッフ
日時:
2004 年 2 月 24 日
概要:
(1) 広報体制全般、情報発信について
  • かつては、教育広報は、むしろマイナス査定といわれた。一部では、啓蒙は不正確な知識を広め、科学的知識を歪めるだけという認識が未だに根強い。
  • 広報委員会が設置されたのは 2 年半前。現在の広報委員長は 2 代目。
    • * 国立天文台、高エネ研、地震研の広報活動重視に感化された。
    • * 企画委員会レベルでは理解されている。
  • 多くの研究者は、学会の方向だけを向いている。
  • 専門論文を量産しなければというプレッシャーが強い。特に東大理学部。
  • 学部ホームページは専任の助手が担当。コンテンツは広報委員が提供。デザインはパート。広報室職員もパート。
  • 大学院生による研究室訪問リポートを行い、ウェブで発信している。しかし、科学コミュニケーション (SC) 教育を行っていないので、学生ごとの能力差は歴然。
  • ホームページは助手クラスが担当。デザインはパート。広報室職員もパート。
(2) 人材養成
  • 大学院生への科学コミュニケーション (SC) 教育には懐疑的な雰囲気がある。
    • * まず重要なのは専門知識であり、SCは余力のある人が身につければよいという意見が根強い。
  • 大学院大学化によって学生が多様化すると同時に、学生間の競争も激化している。SC分野に進むことは、敗北という意識がある。
  • 英語によるコミュニケーションスキルアップ教育は実施している。21 世紀 COE を活用。
  • 社会および企業の SC に対する評価が低いので、SC に特化しても、学生には先が見えない。日本では魅力ある就職口が見当たらない。
  • 組織的なプレゼンテーション教育は行っていないが、各講座のゼミがその代わりになっている。ただし、あくまでも専門家相手のプレゼンを視野に入れている。
  • 民間企業に就職希望の学生の、社会に出て役立つスキルを身につけたいという意識は高い。現在では、この意欲が英会話の習得に向けられていて、SC には向いていない。
  • 研究のバックグランドを知る必要性を自覚すれば、SC スキル習得意欲は高まるかもしれない。
  • 優秀な学生ほど修士で企業に就職してしまう傾向がある。ただし、学部としての就職斡旋はしていない。
  • とりあえず修士課程に入ってから、将来のことは考えようという学生が多い。
  • コミュニケーションスキルについて、素養としてなら、習得することに抵抗感はない。
  • 最近の大学院生は、研究テーマでも、社会の役に立ちたいという意識が高い。研究を通じた SC への関心は高い。大学院でのコミュニケーションスキル教育への要望は高まっているが、反対意見もある。
  • 研究費申請にも、コミュニケーションスキルは重要。
  • SC をどうやって教えるか――有能な科学ジャーナリストでも、教えるスキルを持っているとは限らない。
  • SC 教育を実施するとしたら、特認教授でならばすぐにでも可能。ただし、適任者がいない。

5. 放射線医学総合研究所

対応者:
広報室長
日時:
2004 年 2 月 25 日
概要:
(1) 広報体制
  • 民間企業の広報室長、宣伝部長から2 年前に転身した。
  • 民間のPR手法がもっと生かせると思ったが、さまざまな壁を感じている。
  • 市民のさまざまな電話質問に対応するにつけ、放射線に関する特殊なイメージを払拭するために積極的な広報活動が必要と実感。
  • 青少年や主婦に放射線利用の有用性を啓蒙する長期的な視野に立った広報活動を展開すべきと考えているが、手が回らないのが現実。
  • 放医研は、放射線の「医学利用」という観点から、 (他機関に比べて) 広く共感を得る前向きの広報活動が展開しやすい。特に重粒子線がん治療については、幅広い関心が寄せられている。
  • 理事長をはじめ広報活動の重要性は認識されているが、現状、広報担当常勤者は2名であり組織的な業務運営をとりにくい。
  • 民間の企業広報担当経験者をもっと活用すべき。その理由は、①経営広報・収益指向といった目標設定が身についており、戦略的思考に長けている。②ブランド価値の重要性を認識しており、リスク管理に長けている。
(2) 情報発信
  • 定期刊行物 (放医研ニュース、放射線科学) 等を発行。
  • 国内外に向けたホームページの拡充を図っており、月平均6万件を越すアクセス (訪問者) 数を獲得している。
  • 研究成果を積極的にプレス発表すべく、研究者に向けた発表マニュアルを発行するなどの働きかけを実施している。
  • 放医研は、文部科学記者クラブへの発表が基本だが、事案によっては、厚労省関連の発表事案も増加しつつある。
  • 昨年来、若手研究者を中心にプレス発表数も増加しているが、研究案件の数に比してまだ充分な活動はできていない。
  • 研究者に対し、論文発表や学会発表とは別の意味で、マスコミ対応の重要性を強調しているが、充分に認識されているとは思っていない。
  • 「なんのための、だれのための」研究といった意識に温度差がある。
  • 安心を得るための「安全研究」は、市民に認識されることが第一義であり、研究者による広報活動への積極的な関与を要請している。
  • プレス懇談会 (記者懇談会、論説委員懇談会) を開催し、研究者とマスコミとの積極的な交流を図っている。
  • 研究成果の発表とは別に、放射線に関る社会的事案についてのマスコミ取材に常時対応している。
  • 取材案件によっては、市民の誤解を生みやすい事案も多く、取材意図の的確な把握を目的として、文書による取材申込みを基本にしている。
  • 研究者が直接市民に語りかける場として一般講演会 (年2回)、公開講座 (年3回) を実施している。
  • 一般公開 (科学技術週間中) は、若手研究者の協力で、平成 16 年度は、1日に2,552人の入場者があり、広報催事として大きな成果を得た。
  • 一般に関心の高い先進医療施設であることから見学希望者が多く、積極的に対応しているが、一般者に向けた展示物や、説明体制は充分ではない。 (年間来訪者約4,000名)
  • 放射線利用施設であることから、地域住民に向けた広報を重視、地域誌紙への対応のほか自治体催事にも積極的に参画している。

6. 社団法人日本技術士会

対応者:
企画部長
日時:
2004 年 2 月 26 日
概要:
(1) 技術士会自体の情報発信
  • 主として会員向けの月刊誌を発行している。技術士会のホームページからも各種の情報を発信している。
  • 広報委員会が設置されている。メンバーは、各部門の会員約20名で構成。総務部が事務局で担当者は (併任で) 2名。
  • 月刊誌は会員向けの雑誌であり、必ずしも一般の読者を想定した表現にする必要性はないが、会員以外への広報にも活用できるよう企画・編集することにしている。
(2) 技術士会会員の増
  • 技術士の資格を取得しても、日本技術士会の会員となる者の割合は2割程度。
  • 社会における技術士の活用を進めるためには、会員になって頂くことが有益。
  • しかしながら、会員になる必要性がない等の理由から、会員にならない人も多い。
  • HP等を活用して情報発信を充実させ、会員を増やす努力をしていきたい。
(3) 継続教育 (CPD)
  • 技術士は資格を得た後も、生涯にわたってその資質を向上・維持する努力をすることが大切。
  • このため、当会では、CPD についてのガイドラインを定めたり、研修を受ける機会を設定したり、他の学協会が実施する研修の情報を提供したりしている。
  • その中には、専門技術に関するものだけではなく、英語によるプレゼンテーションやコミュニケーション、一般社会との関わりに関するものもある。技術士が社会において活躍していくためには重要なことである。
  • 従って、科学コミュニケーションに関する研修コースができれば、それを CDP の一つとして活用することも考えられる。
  • また、このような観点からは、技術士も一種の「科学コミュニケーターである」ということができる。
  • さらに、技術士は、ほとんどの科学技術分野をカバーする21の技術部門があること、及び技術士は、相当の実務経験を有していることから、「科学コミュニケーターとしてふさわしい」といえるであろう。

7. 徳島大学

対応者:
副学長 (総務担当)、総合科学部長、大学開放実践センター長 (公開講座)、ゲノム機能研究センター教授 (医科学修士課程担当)、総務部企画広報係長
日時:
2004 年 3 月 3 日
概要:
(1) 大学広報
  • 広報誌年 4 回、副学長定例記者会見月 1 回、記者との懇談会年 1 回。
  • 法人化に当たって HP を一層充実させたい。
  • 大学メンバーが参加する広報委員会で、方針・内容を決める。
  • 企画広報室のうち、係長 1 名及び非常勤職員 1 名が主として広報を担当。
(2) 医科学修士課程
  • 医学部以外の学生が医学の勉強をすることを目的として、平成 15 年度から募集開始。
  • 外国人も含めて26人採用。大学学部での先行としては、工学など理科系学部の他、英米語、教育、経営、ドイツ語、心理学なども含まれる。
  • こういったコースにおいて、付加的にこのような実践的なコースをつくるのは良いこと。
  • あと、当初は基礎研究を目指していても「自分は向いていない」というケースも出てくるので、科学コミュニケーションに転向することも考えられる。
(3) 総合科学部
  • 文理両方の専門あり、女子学生が6〜7割を占める。
  • 博物館の学芸員の養成コースもしているが、実際に学芸員になるのはポストも少なく難しい。
  • 学芸員は専門家・研究者という認識が強く、教育普及のような訓練はされていないし、大学でもできない。このことは問題。
  • 一般的に、人文科学・自然科学においてはコミュニケーションは軽視されてきたが、これではいけない。
(4) 徳島大学における修士コースの設定
  • 今後、徳島大学において、修士課程の + 1 年のコースとして、SCに関する専門的な内容を伝えたい。
  • その場合は「資格」の設定が不可欠。
  • 実際に米国の修士1 年コースでは、どういう人が、どういうことを教えているのか具体的に知りたい。
  • 都会の大学と異なり、以下のような点について考えることが重要。
    1. ①地域の需要の開拓
      • *徳島であるいは四国でどのような人材が必要とされるのか。
      • *たとえば、類似の話としては、総合科学部を卒業して県内で学芸員になる人は少ない。また、高校教師の道も厳しい。
    2. ②教官となる人材をどのようにして集めるのか。
      • ・教える内容
      • *文系能力をもった者が理科を教える、理系能力をもった者が文系のことを教える、というのがよい。
        (例) 心理学や英文学の勉強をした者が医学を教える
      • *就職先が確保できるかがポイント。そのためには「資格」の設定が不可欠。
      • *ただ学ぶだけでは駄目。すぐ職業という訳ではなくとも、たとえば、ボランティアでもよいから社会に役立てられるようにしたい。
  • 教官としては実務的能力を持つ者が当てられる必要があるが、果たしてそのような人材が集められるか疑問。
(5) 「都会」「私学」とは異なる「地域」としての取り組み
  • 本学としては、旧帝大や都会の私学に対抗して、社会人教育の再構築との観点からの取り組みが適当ではないか。
  • 例えば、一次産業 (農業) にしてもハイテクが応用されているし、鳥インフルエンザの発生に対して冷静に対処することも必要である。
  • また、社会人がキャリアアップして転職の際に役立てるということもある。
  • 例えば最近は主婦が臨床心理の勉強をしていることが増えているが、あれも臨床心理士の需要が増えているから。同様にSCの勉強をして、科学と公衆の架け橋となることができないか。
  • 県庁、農協の職員等が、間に入って、大学の研究情報をユーザーに伝えることが考えられないか。
(6) その他
  • 日本には、日本古来からの技術はあるものの、西洋的科学の土壌は無いため、カリキュラムの中には「何故科学をするのか?」といったことを考えるため、「科学論」や「科学史」のカリキュラムを加えることも必要。

8. 国立遺伝学研究所

対応者:
広報・知財権担当教授
日時:
2004 年 3 月 8 日 (電話)
概要:
(1) 広報体制
  • JST の特定研究担当技術参事だったが、班長の堀田所長に乞われて 2003 年 3 月に着任。それ以前は企業研究所にいた。国際ビジネスの経験が、知財の仕事に生きている。
  • 知財が主たる仕事。
  • 広報委員会の委員長兼務。ウェブページの「遺伝学博物館」は斎藤教授が主担当。
  • 広報関連業務としては、毎年3〜4つの学会に於いて当研究所の研究成果並びに大学院の学生募集を周知させるため、ブースの展示を行う。また、研究所の優れた研究成果を一般に分かりやすく知らしめるためにウェブページの「ホットニュース」、プレス対応にも注力している。
  • 広報関連のスタッフは、自分以外に非常勤職員が 1 人だけ。人手不足、予算不足。常勤職員並の仕事をこなしている。
  • 所長の方針: 研究者はオリジナリティを追求せよ。広報は広報担当にまかせろ。
  • 研究室を回り、知財に関する意識啓蒙をしつつ、特許の芽を捜している。 (就任以後、約30件の特許を申請)
  • 知財と広報に関する研究者の理解は次第に高まってきた。
  • 優れた基礎研究成果の中には必ず社会に役立つ発明が潜んでいるとの信念の基に、独創的な研究の重要性を研究者に話しながら、特許獲得によるメリットとして共同研究の芽となり、基礎研究のプライオリティの確保につながる事を説明している。
  • 外部機関との共同研究契約、共同特許出願契約、事業化契約等の契約文書作成・管理業務にも注力している。
  • 研究者の仕事としては、論文のオリジナリティが最重要課題。
  • 岡本 (理研) スパイ事件以後、知財権に対する研究者の関心も高まっている。
  • 広報・知財スタッフ拡充に関する大号令がほしいくらい。
(2) 情報発信
  • 研究所一般公開 (4月 10 日)、地域交流 (来年の沼津市市制 80 年技術博を前に、今年は産業博に参加予定)
  • 毎年 6 月には、全国の国立大、国研の研究成果からの知的財産に関する発表会に参画。
  • 研究所公開講演会 (10月 16 日) では一般市民に分かりやすい講演会を開催し、遺伝研の研究内容を理解して頂く為に開催した。同時に大学院の学生募集説明会を開催。
  • 都市エリア産学官連携推進事業 (3 年間) を立ち上げ、自らこの事業の研究統括に就任し、産学官連携による研究成果獲得に力を注いでいる。

9. ㈱ 島津製作所 広報・IRグループ

対応者:
グループ長、主任
日時:
2004 年 3 月 31 日
概要:
(1) 広報体制について
  • 第二次ライフサイエンスブームで動物分野 (DNA・プロテインシークシーケンサーーなど) にも進出し、バイオ関連の広報にも力を入れるようになった――以前は、ライフサイエンス分野の事業は植物バイオ (細胞融合装置) 程度だった。
  • 製造業での広報の特性 (新製品に関して)
    1. ①新技術の開発告知
    2. ②新商品の発売告知
    3. ③市場での浸透告知 (例えば大口で受注したなど)
  • 企業イメージの向上に、5 年前から広報誌を発行。意識的に親しみやすい内容とし、より多くの方への事業認知を図るツールと位置付けている。
  • 2002 年 10 月のノーベル賞ニュースは全く予期せぬ出来事であり、当初日本中のメディアが集中しマンパワーの点で苦労をした。余りにも多くの取材希望に田中の健康のこともあり、応対するメディアを選ばざるを得なかった。この点、応対できなかったメディアからは不満の声が上ったのも事実だ。ただメディアの関心が、受賞内容のことよりは田中の人柄などに集中しがちになったのは残念だった。
  • 技術関連の PR の場合は、メディアとの齟齬をきたす場合がある。開発担当者によるメディアへの説明は、専門の技術内容に偏る結果、その価値を正しく理解されないことが間々生じる。開発担当者にはPRマインド (広く知ってほしいという意識) が欠ける場合が多い。
  • 技術的な内容と言えども、PRに関してはコミュニケーションを専門にする担当者が主体となるべきだ。開発の意義、その価値、また社会での有用性を効果的に説明できるからだ。
(2) 人材養成について
  • 技術者へのメディア対応の講習等は特に行っていない。
  • 発表の機会には都度専門の技術者にメディア応対について事前説明をするが、コミュニケーションの担当者が本来発表を行うべきであろう。
  • 大学・大学院教育の段階での科学コミュニケーション教育があれば有益であろう。一方コミュニケーションの担当者も、技術関係の情報収集・勉強に意欲的であるべきだと考える。

10. 和歌山大学

対応者:
学長、学長室教育担当教授 (学生自主創造科学センター教授)、教育学部助教授 (天文学) ほか
日時:
2004 年 5 月 25 日
概要:
  • 平成 18 年 3 月を目処に、美里町立みさと天文台を和歌山大学付属教育研究施設とすることで、関係機関三者の合意を得た。ただし、施設運営は美里町、職員人件費は和歌山県教育委員会、研究教育活動は和歌山大学の分担とする。
  • 教育学部の学生を天文台に派遣し、見学者などの対応に当たらせると、プレゼンテーション能力の向上のみならず、学習意欲のめざましい向上も見られる。いちばん優秀な学生 (4 年生) は、JR東海への就職内定を得た。
  • 出張授業に参加した学生の学習意欲も向上する。
  • 和歌山大学の科学教育、教育工学のグループと天文台が連携することで、大学の1研究室では達成が望めない高い水準での天文教育、天文学の普及、教育の推進を目指している。
  • とりあえずは天文が中心だが、同種のネットワークを和歌山大学が擁するすべての分野に拡大し、県内の各種生涯学習施設との連携を視野に入れている。
  • そのような教育実践、普及活動、研究活動への大学生、大学院生の積極的な参加により、学生が各種能力を向上させると共に科学技術教育、科学技術の知識普及 (科学コミュニケーション) に対する意識を高め、社会に出て行くことが期待できる。
  • このようなプログラムを新プロジェクトとして立ち上げるのは、新たな教育施設、センターを新設する計画とはちがい、学内での同意を得やすい。

11. 日本 IBM 株式会社

対応者:
広報パブリック・リレーションズ (PR) マネージャー、 スタッフ・オペレーションズ渉外主任及び担当者
日時:
2004 年 9 月 6 日
概要:
(1) 広報全般について
  • 広報には 2 つの部門がある。1 つは対外的なパブリック・リレーション (PR) で、対象はメディア (要員は 10 数名)。もう 1 つは社内広報で、会社の方向性を社員に徹底することがミッション。新たに吸収合併した企業も含めた一体感を目指す。
【以下、PR についてが中心】
  • 日本 IBM としては国内上場はしていない (日本では、米国本社が上場) が、広く情報を公開することを目的に業績に関する発表を実施している。
  • 広報と宣伝は別。宣伝はマーケティング部門の担当 (日本IBM科学賞も)。
  • 経営戦略、業績、人事施策、新製品・サービス情報、研究・開発分野での成果などについてのマスメディア向け情報発信が仕事。
  • PR 誌として、雑誌 (『無限大』) を発行。事業や IT 業界についてではなく、「文化」など、あえて間口の広いテーマを設けることによって、間接的に企業姿勢をアピールすることを目的としている。
  • ニュースとして価値があるのは、既存のものとの差異があるもの。そうしたニュースを見つける上でも、女性の感性が十二分に発揮されている。
  • サイエンスキャンプはワールドワイドのプログラム。
  • PR の使命は、メディアを通じた情報発信により、社会との架け橋となること。また、その効果は、社内に対して跳ね返ってくることも期待される。広告などの宣伝活動とは、目的も手法も別。
(2) 人材養成について
  • メディアトレーニング: 役員やエグゼクティブ・クラスを対象に、メディア・トレーニングを行っている。それぞれの事業分野に象徴的な"顔"を作ることは情報発信を行う上で有効。その頂点は、社長である。
  • 広報担当者の適正: 感性と感度。嘘で逃げない心懸け。基礎体力 (謙虚さ等) があれば、あとは経験しだい。
  • メディアに発信することで、自分がニュースと判断した情報が、社会的な視点から精査を受け、果たしてどれだけの客観的価値があったのかを検証することによって、感性が鍛えられる。
  • わかりやすいプレゼンテーションが重要。社員から情報を引き出すテクニックも必要。