政策研ニュース No.170

写真: 機関評価委員会会津会合
機関評価委員会会津会合

目次

  1. Ⅰ. 研究会等紹介
  2. Ⅱ. 海外事情
  3. Ⅲ. トピックス
  4. Ⅳ. 最近の動き

Ⅰ. 研究会等紹介

研究・技術計画学会 第 17 回年次学術大会

第2研究グループ主任研究官 富澤 宏之

研究・技術計画学会 第 17 回年次学術大会が平成 14 年 10 月 24 日〜 26 日に北九州市で開催された。当学会は、科学技術の経営・政策全般にわたる研究交流と情報交換を図ることを目的とする学会であり、毎年秋に、産・学・官の多分野にわたる学際的、業際的な参加者による年次学術大会を開催している。本年は、当研究所より 6 件の研究発表を行った。以下に発表内容の概要を示した。([ ]内は発表者名。○は登壇者を示す。)

1) 科学技術国際協力に関する現状の分析 [○川崎弘嗣† 、小林信一† ]

科学技術の国際戦略策定のための基礎的知見を得るため、日本の科学技術における国際協力の実態分析を試みた。政府予算における科学技術国際協力関係の経費を見積もるためのデータ収集を行い、経費を推計するとともに、研究分野の分類等、資金面からの現状を分析し、それらの結果について報告した。

2) 企業会計基準の変更と R&D - 影響企業の傾向分析 [○吉澤健太郎† 、小林信一† ]

研究開発およびソフトウェアに関する会計基準が平成 10 年に変更され適用されている。この変更は、企業の研究開発会計に影響を及ぼすばかりでなく、間接的には企業の研究開発行動にも影響を及ぼすものと予想され、さらには、総務省の科学技術研究調査にも影響を与えると考えられる。科学技術研究調査の他、有価証券報告書、更には企業財務データバンク(政策投資銀行)のデータを用い、研究開発に関する会計基準の変更がどのように影響していたのか報告した。

3) 米国における公的研究開発の評価手法 [○齋藤芳子† 、富澤宏之† 、小林信一† ]

米国連邦政府における研究開発評価について、用いられる評価手法、定量的手法が用いられるようになった背景、および調査から得られた政策的含意を報告した。なお、本報告は、当研究所の報告書『米国における公的研究開発の評価手法』(調査資料 - 86、2002 年 5 月)において公表した調査結果をもとに考察を加えたものである。

4) 研究開発統計におけるFTEの概念・原理の問題点 [○富澤宏之† ]

現在の R&D 統計の標準的体系においては、 R&D に投入されるマンパワーはFTE(専従換算)によって測定される。しかし、実際の測定方法は国によって異なっており、国際比較可能性が確保されているとは言い難い。科学技術政策の立案等に広く用いられる R&D マンパワーの統計データにこのような深刻な問題があることは、これまでほとんど認識されていなかった。若干の実態分析とFTE測定の概念・原理の再検討を通じて、これは単なる測定技術上の問題ではなく、 R&D 統計の原理に由来する問題であることを示し、 R&D 統計体系の再構築の必要性を提示した。

5) IMD による World Competitiveness 指標の分析―科学技術分野― [○丹羽冨士雄‡ ]

各国の競争力を示す指標として広く注目されているIMDの世界競争力(World Competitiveness)は深く分析されているとは言い難く、また計算方法が公表されていないため、本研究では、IMD の 2001 年報告書を対象に、科学技術における世界競争力の詳細分析を行った。その結果、IMD の世界競争力の統計的構造や信頼性についての問題点が明らかとなった。

6) IMD 科学技術 World Competitiveness の時系列分析 [○丹羽冨士雄‡ 、桑原輝隆#]

IMD の世界競争力(World Competitiveness)の時間的傾向についての分析結果を報告した。科学技術分野の競争力を構成する変数について時間的傾向の国際比較を行い、競争力の要因を明らかにするとともに、IMD の使用変数や競争力算出法の問題点を明らかにすることを試みた。


写真 :発表中の川崎上席研究官(座長は富澤主任研究官)
発表中の川崎上席研究官(座長は富澤主任研究官)

† 第2研究グループ

‡ 当所客員総括研究官 / 政策研究大学院大学教授

# 科学技術動向研究センター

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Ⅱ. 海外事情

地域の成長に向けたイノベーション活動の取り組み - 米国(オースチン、サンディエゴ)の事例から -

第3調査研究グループ特別研究員 俵 裕治

写真 :たわら ゆうじ
たわら ゆうじ
平成 2 年中国電力(株)入社。工務部、技術研究センターなどを経て、平成 13 年 10 月から科学技術政策研究所第3調査研究グループ特別研究員。 地域イノベーションのグッドプラクティス調査等の活動に従事している。

1. はじめに

米国には、科学技術を地域経済成長の「中核的資源」と位置付け、大学や企業研究所等で研究開発された新技術をビジネスに結びつけながら急成長を遂げている「知的集約型都市」が多数存在する。その中でも代表的な地域であるテキサス州オースチン、カリフォルニア州サンディエゴを訪問して、地域のイノベーション促進に関するグッドプラクティス調査(ヒアリング調査)を実施した。この調査の目的は、地域イノベーション促進に関する成功要因を分析し、評価指標を検討し、モデル化して政策提言に結びつけることであり、当研究所の地域イノベーション検討委員会※の助言を受けながら独自に計画・実施しているものである。

訪問調査期間は 11 月 4 日から 11 日までの約 1 週間。前田昇 客員研究官(高知工科大学大学院教授)に随行して調査したものから、所感を含め概要を紹介する。

2. どうやって文化を変えるか(How do you change the culture?)

テキサス州といえば、ダラスやヒューストンのように石油採掘で栄えた都市が真っ先にイメージされるが、その州都であるオースチンは 1960 年代半ばまではさしたる産業もなく、気候環境に恵まれた大学(テキサス大学オースチン校)と州政府の街という感じだったらしい。その後、コンピュータや半導体開発の大企業等(IBM、セマテック、MCC…)が相次いで研究開発部門を移し、またベンチャービジネスの象徴的成功者であるマイケル デルがデル・コンピュータを創立する。80 年代後半には深刻な経済不況を経験したが、IT、ソフトウェア開発といったテキサス大学の強みを活かし、技術移転促進の「触媒」的役割を果たすオースチン テクノロジー インキュベータ(ATI)、ザ キャピタル ネットワーク(TCN)、オースチン ソフトウェア カウンシル(ASC)等起業家育成プログラムが組織され、90年代後半には多数のベンチャー企業が生まれ、成長する一大知的集約型都市になっている。

この一連の成長過程の全般に亘って重要な役割を果たしているキーパーソンが、ジョージ コズメツキー博士である。博士は 1966 年にオースチンに移り住み、ビジネススクールの学部長となって早くから起業家精神の教育の重要性を説いていたが、80 年代初頭には「オースチンは一大テクノロジーセンターになるべきだ」というビジョンを持ってリーダーシップを発揮し、様々な「実験的試み」を行ってきた。当時はまだ「起業家精神の教育」も実験的試みの一つに過ぎなかったが、20 年後のあるべき姿を明確に描き、大学や商工会議所、州や近隣市を含む行政、経済界と協力しながらその実現に尽力されている。

冒頭の一節"How do you change the culture?"は、そうしたお話の中で繰り返し述べられ、短期間に文化を変えることは難しいことではあるが、と付け加えられたものだが、実は本質的な目標がそこにあったのではないかという気がしている。つまり、「時勢の変化に柔軟に対応できること」が、現在のオースチンの持てる力であり、次の 15 年、20 年先を見据えて素早い対応ができる原動力となり、それがこの地域の魅力になっているのではないかということである。オースチンもご多分に漏れず、昨今 IT 不況の影響を受けて失業率の上昇など経済情勢の悪化が顕在化しつつあるが、博士の影響を受けた様々なリーダー達の話を聞くうちに、核となる大学の持てる力を活かしながら、次のフェーズへのシフトを着実に進めているという印象を持った。

訪問以前は、オースチンには目覚ましい成功を遂げた地域として、何か成功の最終形態のようなものがあり、その状態をシステマティックにキープし、コントロールすることにより「持続的な成長」を図っているのではないかと考えていた。しかし実際には、将来のあるべき姿と現状の潜在力の間にある本質的なギャップが何かを明確に示し、必要な「触媒」を適所に配備することにより潜在力活性化のきっかけをつくるというのが基本のようである。「あるべき姿」も「潜在力」も情勢変化の中で流動しているが、絶えず変化するニーズにダイナミックに応えられるだけの対応力が「持続的な成長」の鍵になっているように感じた。この対応力の一翼を担っているのが「外から来た人」やインターンシップ等で「外」を経験して帰ってきた人であり、彼らをこの地域に惹きつけているものは、高い生活の質(Quality of Life)らしい。ただ、その言葉の本質は、経験してみなければわからないようである。

写真 :筆者,コズメツキー博士,前田客員研究官
筆者、コズメツキー博士、前田客員研究官

3. UCSD コネクトの取り組み

サンディエゴは、マイケル ポーター ハーバード大学教授のイノベーションクラスター分析にもその地域経済発展の経緯が詳しく紹介されているが、UC サンディエゴ校をはじめとする知の源泉と、協働を促進して起業を活性化する UCSD コネクトプログラムは、地域競争力を高める主要因となっている。特にハイテク、ライフサイエンス分野では高度な基礎研究が行われ、関連する多様な人材が集積しているが、コネクトは研究者とビジネスリーダー(弁護士、会計士、経営コンサルタント、銀行、不動産業……)の相互理解を促進し、起業に必要なチーム編成・グルーピングをサポートしている。「最先端の技術をグローバルビジネスとして立ち上げるには、ビジネス界の人が「技術」を理解しなければならない」ということである。 研究者自らが経営的知識を持ってベンチャービジネスを立ち上げる形より、少し幅の広い役割分担(パートナーシップ)を初期の段階から円滑に導入されているように感じられた。


最後に、今回の訪問調査に際しては、日本貿易振興会(ジェトロ)に多大なご協力を頂きました。ヒューストンの小澤仁護様、ロサンゼルスの横田真様をはじめ、関係の方々にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。


※地域イノベーション検討委員会: 地域イノベーション調査研究の推進にあたり、定期的に有識者の評価、助言を受けることにより、より効果的な調査研究を行うことを目的として、今年度から当研究所に設置。

構成メンバー(敬称略)
委員長:
松田 修一(早稲田大学教授)
委員:
金井 一頼(北海道大学教授)、関 満博(一橋大学教授)、西澤 昭夫(東北大学教授)、前田 昇(客員研究官・高知工科大学大学院教授)、吉田 文紀(アムジェン(株)代表取締役)、アレン・マイナー((株)サンブリッジ代表取締役)
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Ⅲ. トピックス

平成 14 年度科学技術政策研究所機関評価の結果について

企画課 樋口 晋一

写真 :会津大学を見学中の今村所長及び原山機関評価委員他
会津大学を見学中の今村所長及び原山機関評価委員他

本年 4 月より、池上 徹彦 会津大学学長を委員長とする機関評価委員会において、科学技術政策研究所の平成 14 年度機関評価が行われてきましたが、このほど同委員会からの「将来に向けての提言」を含む報告書がまとめられ、11 月 21 日に池上委員長より今村所長に提出されました。


今回の機関評価においては、本年 4 月以降計 6 回の会合が開催され、当研究所より提出した研究所の活動全般に関する資料に基づき、行政部局関係者(井上文部科学省科学技術・学術政策局次長)及び外国人専門家(Dr. W. Blanpied NSF 東京事務所長(当時))からの意見聴取・討議、当研究所の研究職員からの意見聴取等を交え、調査研究活動及び機関運営全般に係る検討・評価が実施されました。


今回の機関評価の最終会合となった第 6 回会合は、10 月 25 日に池上委員長のお膝元である会津若松・会津大学において開催されました。

会合開催に先立ち、機関評価委員及び当研究所のスタッフが学内を見学しました。同大学の特徴としては、教員の 40 % 以上が外国人であり、この比率が優秀な人材を国内外から広く求めた結果であるという点が挙げられます。また、磐梯山をはじめ会津の美しい自然環境の下に立地する洗練された建物の中には、24 時間利用可能なワークステーションや発音を視覚的にチェックできる語学教育システムが設置されており、施設面でも非常に充実しています。

第 6 回会合は報告書取りまとめのための最終会合ということもあり、予定されていた 2 時間を大幅に超えて、各委員による熱のこもった議論が行われました。


今回の機関評価の結果、池上委員長より提出された報告書の主なポイントは以下のとおりです。

1. 今回の機関評価の位置づけ

今回の機関評価のねらいは、研究開発評価に係る関係指針類に基づき、前回機関評価後における当研究所の運営全般に係る評価を行い、研究資源の適切な確保・配分及び運営上の問題点の改善等を通じ、機関としてのマネジメントの質的向上及び調査研究活動の一層効果的・効率的な推進を図るものです。また、国立研究機関である当研究所では、独立行政法人研究機関とは異なり、機関評価委員会は中期計画そのものの妥当性チェック・検証を含めた機関運営全般の評価検討を行う一種の「運営諮問委員会」的位置づけとなります。

2. 評価結果及び今後の課題

前回(平成 10 年度)の機関評価実施時と比べ、省庁再編・第 2 期科学技術基本計画の策定など科学技術政策の枠組みが大きく変革される中、当研究所への期待は益々増大しており、今こそ存在をアピールすべき時であり、次の 5 年間は「政策志向型」を第一の優先度として調査研究活動に取組むべきであるとされました。

また、各部門ごとの研究活動の評価については、昨年新設された科学技術動向研究センターが予想を超えるパフォーマンスを発揮しており、その他のグループも政策面及び学術面において相応の貢献を果たしている一方で、外部への成果発信に不十分な面があるとの指摘がなされました。

3. 将来に向けての提言

(1) については、① 地域の研究開発・イノベーション活動を支援するための調査研究の強化といった政策的・社会的要請に対応したテーマ設定、絞り込みと優先度付けの実施、② アジア各国を対象とした調査研究・交流活動の強化といった政策提言機能の強化が課題とされています。

(2) については、① 外部研究資金の獲得努力の強化、② 研究所の OB / OG を節点とするグローバルなネットワーク作りや連携大学院方式の検討といった人的ネットワークの拡大及び研究人材養成・確保への支援、③ 講演会・セミナー等による行政部局へのサービス提供の促進やホームページの充実を含む成果の知識ベース化といった成果の国内外向け発信機能・認知度向上活動の強化とプレゼンス向上が課題とされています。

(3) については、① 研修プログラムの質的拡充、研究者業績評価・調査研究課題評価に際しての一様でない重み付けの検討といった研究人材の能力研鑽及び適切な評価軸の構築、② 優れた研究成果を触発する交流スペースや外部参画者のためのスペースの確保といった研究環境の充実が課題とされています。


報告書に記載されている提言については、国際客員研究官プログラムの創設など平成 15 年度概算要求に先行的に盛り込んでいる事項もありますが、当研究所としては今回の機関評価において提言を頂いた事項等について、今後所員一丸となってその具体化に取組んでいきたいと考えています。


なお、本評価委員会の審議経過等について当所ホームページにおいても掲載しております。


写真 : 池上委員長より評価報告書を受け取る今村所長
池上委員長より評価報告書を受け取る今村所長
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Ⅳ. 最近の動き

○ 主要来訪者一覧
・11/ 1 Prof. Francis Waldvogel: スイス連邦工科大学(ETH)評議員会会長
・11/11 廉 載鎬: 高麗大學教授(國家科學技術諮問會議専門委員)
  崔 光鶴: 在京韓国大使館科学官
・11/19 具 本梯: 韓国科学技術省技術協力局長
  權 相遠: 同技術協力局総括課長
  崔 光鶴: 在京韓国大使館科学官
○ 講演会・セミナー
所内研究成果報告会
11/ 1 「科学技術国際協力に関する現状の分析」(川崎 弘嗣)
  「企業会計基準の変更と R&D - 影響企業の傾向分析 - 」(吉澤 健太郎)
  「米国における公的研究開発の評価手法」(斎藤 芳子)
  「研究開発統計におけるFTEの概念・原理の問題点」(富澤 宏之)
11/13 「技術知識ソーシングにおける海外研究開発活動の役割: 日本企業による対米研究開発投資の実証分析」(岩佐 朋子)
11/15 「『平成 12 年度版科学技術指標 データ集 改訂第 2 版』の概要について」(深澤 信之)
  「個人のイノベーションとライセンス」(和田 哲夫)
   
11/27 「創造的研究者のライフサイクルの確立に向けた現状調査と今後のあり方」(和田 幸男)
  「国際級研究人材の国別分布推定の試み」(鈴木 研一)
○ 新着研究報告・資料
創造的研究者のライフサイクルの確立に向けた現状調査と今後のあり方 - DISCUSSION PAPER No.24 -
「科学技術動向 2002 年 11 月号」(11 月 28 日発行)
  特集 1 情報通信分野におけるアクセシビリティに関する研究開発と標準化の動向
  客員研究官 山田 肇、情報通信ユニット 山崎 哲也
  特集 2 単電子エレクトロニクス研究の動向
  客員研究官 小口 信行、材料・製造技術ユニット 高野潤一郎
  特集 3 水循環を基本とした総合水管理に向けた研究動向
  総括ユニット 山口 充弘
  特集 4 エアロゾルの地球温暖化への影響の研究
  環境・エネルギーユニット 根本 正博、客員研究官 小林 博和


文部科学省科学技術政策研究所広報委員会 (政策研ニュース担当: 情報分析課news@nistep.go.jp)

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