STI Horizon

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  • DOI: 10.15108/stih.00002
  • 公開日: 2015.12.01
  • 著者: 小笠原敦
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.1, No.1
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

特別インタビュー
総合科学技術・イノベーション会議 原山 優子 議員 インタビュー

聞き手:科学技術動向研究センター長 小笠原 敦

総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の原山優子議員に、策定中の第5期科学技術基本計画(以降、基本計画)の新しい方向性について、お話を伺った。あわせて、STIHorizon誌をはじめとした当研究所の調査研究活動への期待や要望について、また、経済協力開発機構(OECD)科学技術産業局次長などを務められた経験から見えてくる今後の調査研究活動の方向性について、助言を頂いた。


原山 優子 総合科学技術・イノベーション会議 議員
原山 優子 総合科学技術・イノベーション会議 議員

Q:第5期科学技術基本計画の内容や狙いについてお聞かせください。

第5期基本計画策定の難しさ─不確実性への対応

第5期基本計画の策定は、第1〜4期基本計画とは異なるチャレンジングな側面があり、大変難しい作業であると認識しています。背景としては、環境がドラスティックに変化していることと、イノベーションが中心的に取り上げられたことがあります。これまでのように、ある技術に焦点を当て、それを淡々と深掘りしていくだけでは不十分な状況になりました。また、科学技術だけの振興ではなく、科学技術が社会に浸透した結果としての社会的価値も見つつ、世の中の変化を誘導するような政策を打たなければならなくなっているのです。つまり、スコープが広がったのです。

このように難しさが増している中で、2020年の社会像をどこに求めるのか、国民にとって意味のある社会とはどのようなものか、社会・経済システムはどうあるべきかなど、議論は可能ですが、一つの形に特定することができません。様々な要素がインタラクションを起こしつつ社会が動いていくので、科学技術のボタンを押した効果の想定は限定的にならざるを得ず、当然予測し得ないことも起こり得る、そういう不確実性の高い社会になっています。その中では、将来の方向性や可能性についてどのような共通認識を持つことができるのかという議論が重要になります。通常は、専門家の意見を基に作業を進めていく形をとっているわけですが、それでは不十分との認識を持っています。なぜなら、専門家は自身の専門についての深い認識はありますが、横断的な認識は限定的で、特に、社会インパクトの考慮や世界レベルの相場観という観点から適当な人を見つけるのは結構難しいのです。

第5期基本計画中の宿題─議論の素材をそろえるシステム

欲を言えば、第6期基本計画の議論に入る前に、ホライズン・スキャニングなど様々な手法によって素材をそろえ、それを基に議論できるような状況に持っていきたいと思っています。現時点でも既存のデータ・文献、知恵を集めるなど、できる限りのことをやりながら第5期基本計画の準備をしていますが、カバーしきれない部分は宿題として第5期基本計画の間に実装していかなければいけないと思っています。

もう一つの宿題─評価指標の検討

基本計画の成果を計測する指標が必要になっています。これは、大変難しい作業と認識しています。以前のように、数年経過したところでフォローアップするというだけでなく、基本計画を作る段階から評価作業を想定した文章としておき、推進の成果をウォッチしやすい形にしておく必要があります。第5期基本計画では、始めの一歩という感じでやっていますが、第6期基本計画のときにはこうしたやり方が当たり前になっているようにするため、第5期の期間中に指標を洗練させる必要があります。今科学技術振興機構(JST)とも議論をしていますが、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)も一緒にやっていただけると有り難いです。これは、ある種のデータベースを作るということになるのかもしれません。データベースを作り、アップデートし、基本計画の趣旨に合った形で加工することを技術的に支援する組織が必要と思っています。これも具体的なアクションにつなげられればと思います。

Q:STI Horizon誌をはじめとするNISTEPの調査研究活動への期待や要望があれば、お聞かせください。

ホライズン・スキャニングへの期待

将来を捉えるための情報収集・分析は、システマティックに、かつ継続的に行うことが重要です。世界中でこうした手法を模索しているのが現状で、例えば英国では様々な試みを行っています。英国政府主席科学顧問のMarkWalport卿と議論していると、手法の重要性への強い認識を感じます。こうした英国での活用事例などを聞くと、日本はまだまだだと感じます。OECDなどの国際的な動向をウォッチするとともに、ホライズンスキャニングだけでなく、NISTEPがこれまで行ってきた方法やロードマップなども含め、様々な手法を進化させる必要があります。もちろん、手法の議論と併せて、コンテンツの議論にも取り組む必要もあります。

こうした活動はCSTIだけで全てをカバーするのは難しく、外部の知恵を使わなければできません。外部シンクタンクの活用の議論はこれまでもありましたが、実装フェーズになってきたと感じています。

トップダウンとボトムアップ─二つの方向性

情報収集・分析には二つの方向性があります。CSTIがある重要な項目をスクリーニングし、ホライズン・スキャニング手法等を使いながら中身を詰めていくというトップダウンの方法もあるし、世の中で起こっている様々なことをウォッチしながら将来の大きなドライバーを特定していくボトムアップの方法もあります。この両方の取組が必要です。

ボトムアップの部分にシステマティックに取り組むことは、重要ですが難しいと思います。これは、蓄積と情報ネットワークがないとできません。NISTEPには、これまでの取組を通じた蓄積を生かしてほしいと思います。

欧州研究評議会(ERC)ではボトムアップのアプローチでエクセレンスを目指すとの考え方の下で研究支援を行い、質の高い成果を出しています。こうしたボトムアップの活動から新しい芽を見いだす方法もあるのではないでしょうか。我が国で言えば、例えば科研費の中から芽を探り出すような作業です。世界の動向から芽を見いだす方法もあるでしょう。いろいろなやり方を試してみることが大事だと思います。

ただし、確立された手法があるわけではないので、手法開発に重点を置く必要があります。開発に当たっては、様々なアクターと情報を共有しつつ一緒に考えていくことが必要で、NISTEPにはこうした活動のドライバーとなってもらえるとうれしいです。

また、定量的検討(ファクトデータ)と定性的検討をうまく組み合わせていく必要もあると思います。


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プロセスの重要性─時間をかけた深掘りから時の流れを先読み

第5期基本計画に「未来の産業創造と社会変革に向けた取組」という章があります。しかし、未来の産業構造は予測できませんし、現実は予測とは異なったものとなってしまうでしょう。どういうロジックで考えればよいのかも不明です。まずは、ポテンシャルのある分野、例えば人工知能(AI)などテーマを絞って深掘りすることで見えてくるものがあるのではないかと考えています。

その意味で、レポートをまとめるプロセスにこそ意味があると考えています。プロセスの中にどういう人を含めるのか、どういう背景情報を集めるかが要点となりますが、これも手探り状態です。NISTEPの力量の見せ所ではないでしょうか。

将来を考えるときに、基盤となる技術は何なのかという議論があります。見逃してはいけないものは何か、世間一般で言われていることのみでよいのかという問いに答えるには、二段、三段と深掘りしないと見えてこないのではと思います。

もう一つ考えておかなければいけないのは、新しい技術が生み出されることによって、予期しないことが起こることもあるし、悪用・誤用も生じるということです。議論を深めておかないと、危ないツールを与えてしまうことになりかねません。怪我してから「あれはよくなかった」と言っても遅すぎるのです。

芽が出そうなところをウォッチしつつ、それが社会においてどのような意味を持つかの議論が必要です。倫理的な側面をはじめ、可能な限り多様な視点から考えていく必要があります。

これは時間を要するプロセスであり、実際に英国でも一つのテーマを結構時間をかけて検討しています。時間を要するということを宣言した上でやらないと、意味のあるものは出てきません。いきなりテーマがきて、1、2か月でレポートをまとめるということでは、オーバービューくらいしかできず、使えるレポートとはなりません。

第5期基本計画にある「経済・社会的な課題への対応」の章で取り上げるものも同じ土俵に乗せることのできるテーマだと思っています。オンゴーイングのものだけで十分にカバーできているのか、その外にある大事な物を見落としていないのか等、クロスチェックに使えるのではないかと思います。

こうした情報収集・分析は、大がかりである必要はありません。ある研究者がチームを作ってリードするのでもよいでしょうし、粒度も大小いろいろあってよいと思います。臨機応変にハンドリングしながら、時の流れを先読みできるような取組を期待します。

Q:OECDでの御経験から、国際ネットワークを通じて見えてくる科学技術イノベーション政策の国際化と情報収集・分析についてお聞かせください。

新興国・開発途上国の素地作りの支援

開発途上国との連携については、日本の科学技術イノベーション政策の議論の一つのインプットとして使いたいという思いがあります。国際連携については、G7やEU等の先進国とともに国際的課題に取り組むのも一つのパッケージではありますが、新興国や開発途上国との連携の在り方がこれまで以上に我が国に問われています。これから飛躍するための土台としてのイノベーション・キャパシティの構築に何らかの形で日本が貢献できるのではないか、またそれが我が国にとっても益になるというストーリーが必要になってくると考えています。

この場合、どの分野にターゲットを絞るのか、相手国はどこか、といった相場観を持つために、整理された情報が必要となります。あるものを使っているというのが現状ですが、システマティックな情報収集・分析ができればと思います。収集は、日本一国で行うものとは限りません。例えばOECDでは、開発支援が大きな軸の一つとなっていて、もはやODA的な発想だけでは成り立たないとの認識の下に、新たな開発支援の在り方が議論されています。その中で出てきたのが、イノベーションという切り口です。技術移転だけではなく、人材育成や高等教育も含めて受入れ国の素地を作ることが検討されています。ただし、イノベーションを起こすにも途上国に合ったやり方を模索しなくてはいけません。こうした知見がOECDに蓄積されているので、我が国としてはどの部分が活用できるかを考えていけばよいと思います。

情報収集・分析の国際化

情報収集と分析に当たっては、OECDなどの国際的な枠組みを活用して、国内で行った作業を評価してもらうことも考えられます。

また、関連する活動を行っている海外機関との情報・意見交換も必要です。例えば、欧州委員会とは別に、欧州議会でもフォーサイトを実施しているグループがあります。欧州議会は自ら調査する能力を持っていて、フォーサイトも大きなテーマの一つです。科学技術選択評価委員会(STOA:Science and Technology Options Assessment)で、エビデンスベースのフォーサイトを行っています。


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